12 / 118
それからの日常
「王司、そこの皿取ってくれ」
「おっけー。青?」
「あー……白?」
王司 雅也という人物を知ってから。
あの日、話も終了させたあと焼いたガトーショコラを適当に食ってもいいぞ、と言って再び襲いかかる睡魔に目を擦り、余ったら平三か木下にあげればいいやと思いながら自室に戻ってベッドへダイブ。
換気のために窓全開にしてもやっぱりニオイは残るものだな。まぁそれも掛け布団を被っちゃえば解決する問題であって、起きたら消臭剤だの芳香剤だので誤魔化せば乗り切れるだろ。
買ってきた鍵ももちろん付けた。
ドア改造なんて勝手にやってもいいものなのかわからなかったから、平三に相談してみたら付き合ってる相手の会長様に聞いてくれたみたいですんなり了承を得た。
内側から掛けれて外側から開けれないようになってる鍵。だから合鍵なんてものも作れず、俺の部屋に入った人のみが鍵を掛けて安全を確保出来る仕組み。これを毎晩毎晩、たまに引きこもりたい時とかで鍵を掛けてて、買って損なしの具合だ。
――時々、なにもねぇはずなのになにしてんだろう……俺。と、現実に戻るがすぐに木下の言葉を思い出したりなど。意味があるのかわからない貞操危機を回避している。
いや、貞操危機もなにも……って感じかもしれないが、前科があるから。だからこれは俺の被害妄想とか過剰意識とかではない。
絶対にそうじゃないから。
「智志君は本当にお菓子作りが好きなんだね」
「パンケーキは菓子作りっつーか……」
「美味しそう!」
ニカッと笑う王司。
こうして見るとホント、輝く好青年って感じなんだけどなぁ……。中身は、殴られ希望の変態野郎だなんて。世の中どんな人物がいるかわからないものだ。
「智志君……」
「なんだよ」
作ってやったパンケーキを王司の目の前に置いて、俺は俺でテレビゲームを起動。久々にネット繋いで世界大戦してみるか?
最近やってないから腕落ちてるかもなぁ。
「……美味しいよ」
「そりゃよかった」
ピッ、ピッ、と音を鳴らしながらゲームのキャラクターを選ぶ。ソファーに座っている王司にテーブルを挟んでテレビとの距離が近い俺は床に胡座をかく。
「智志、くん」
そこで気付いたのは、しつこいぐらい俺の名前を呼んでくる王司。違和感があった。なんとなく予想はしている。王司には驚かされる事が多々あるけど、この呼び方は……あれか?
でも俺的には嫌な事だからぶっちゃけ今こいつと関わりたくないのが本音。
つーか、この先も出来ればかかわりたくないんだけどな。
「さと、「お前うざい。何度俺の名前呼べばいいんだよ」
とは言ってみたものの、王司からの答えは『いつまでも呼ぶけど』って返ってくる。
冗談かと思ったけど結構本気に聞こえるからやめてほしい。てか、絶対にやりたくないんだけど。
〝王司の膝の上に座るとか〟
「床だと痛いでしょ?」
「じゃあ王司が床で俺がソファーでいいだろ」
「智志君は俺の今の気持ちを知ってるんだ……ならいいでしょ?ね?」
王司が言ったあとに俺は心の中で、しまった……と思った。
確かにこんな返し方じゃもろに、お前の膝の上は嫌だと言ってるようなもんだ……嫌なんだけどな!
だけどこうなった王司はしつこい。こいつのスキンシップは多めだ、と思いつつあまり気にしないで過ごしていたらいつの間にかそんな座り方が出来たんだ。本人は抵抗しない俺を見て受け入れてくれてるんだって思ってるのか?
だとしたら訂正しなくてはならない……。
「コントローラーがここまで届かないのなら俺がそっちに行くけど」
「今のコントローラーは線がなくても範囲内なら動くんだよ、ばーか」
「じゃあ、なおさらいいよね?」
日本語があまりにも通じな過ぎて、すれ違いが起きるほどやばい。
「あのな、王司。俺は真剣にゲームを……ってなんで近付いてくんだよ!パンケーキ食えよ!おい!」
サービスでわざわざバニラアイスまで添えてやったんだぞ?
そう言おうとしたのに、急に立ち上がる王司になぜかハラハラしてしまい動揺。念のために、と始めたばかりのゲームを中断画面にさせて王司を見る。
「ちょっと、ちょっとだけだから。智志くん、ね?」
「意味がわからない。ちょっとってなんだよ……。先っちょだけだから――っていうセリフなみに信用出来ない言葉と一緒だぞ」
「さとしくん」
大きく腕を広げて王司の中におさまってしまった俺。ここでの抵抗はなかなか難しい。
前みたいに俺のあそこを触られるようなセクハラでもないし、かといって無意味なことでもない行動。俺からしたらセクハラに近いし無意味過ぎる行動だから訴えたいのは山々なんだが……これがどうも日常化してて頭痛くなる。
変態は、どうしようもないただの変態だったんだから。
部屋の鍵の効果もあるのか、王司が俺の部屋に入ってはベッドに潜り込んで自慰行為を――なんてのはもちろんなくなったが……いつだか俺が風呂に入ってる間、脱ぎっぱなしの服をかき集めて俺のにおいを嗅ぎながら扱いてる姿を見たり、俺が使った……もしくは使ってる箸でなにかを食べようとする姿を見たり。
王子様である王司 雅也を幻滅しそうな行動を見ててもドン引きしなくなってる俺も変態の一部になってしまったのか……。
あ、でも最近またドン引きするようなこと、あったなぁ……。
ともだちにシェアしよう!