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それからの日常の結果

   王司はどうやら出したものをすぐに片付けない、元に戻さないという性格みたいで。まぁ結局は片付けたりするんだが……俺はすぐに片付けや元に戻したりするからそう思うだけなんだけど。  コップ類の放置だけは目につく俺。  ジュースやコーヒーなんてそのままにしてたら内側に線がつくだろ?  洗えば問題ないとわかっててもなんだか気になってしょうがないんだ……。俺の性格に全て合わせろ、とは言わない。つーかそんなの言ってたら絶対に相手と一年間なんて暮らせるはずがないからな?  わかってるんだが、コップ類は……と思いながらもさっそく王司が飲みっぱなしにしてあるコップを発見。  まだこいつと同室者として日も経ってなかったし、見逃そうと思ったけど初日と次の日の朝のことを思い出せば遠慮もなにもなくなってきて、つい雑誌を見ていた王司の背中を叩いてしまった。  叩いて、それから『飲んだら洗えよ』と一言。  やってしまった事態にすぐ、やっべぇ……と焦って、しょうがなく俺がそのコップを片付けようと手にした時、王司は少しだけ声を震わせながら謝ってきたのだ。それだけ、それだけならまだいい。  ただ震わせる声に、強く叩き過ぎたか……?と若干の心配をしながら顔を窺って見ると、 『ご、ごめんね智志くん……ほんと、おれ――ふふっ……』  俯き加減でもわかった。頬と口元が緩んでいるような、けどそれを我慢して俺に謝る王司の表情。叩かれた背中は手で、届いてるのか届いてないのかわからないまま擦っていた。  なににそんな“喜んで”いたのかわからない。平三にも同じ事を何回、何十回とやってきたが『あとでやろうとしたんだよ!叩く加減を知れ!』と涙目。  木下にだってコップじゃなくても本の整理があまりにもなっていない時とか腕を叩いて言ったりするが無言のまま、だけどムッとした表情も見れる――うざい――と含まれたそれは一般的な反応だと俺は思う。  少なくとも王司みたいな反応は、ない。  叩かれて、素直に謝ったと思えば変な笑いをするとか、ないだろ?  それが最近のドン引きだな……。 「あのよ、王司。俺の体重55キロなわけ。周りよりは軽いが、やっぱ重いだろ?」  それと関係ないが、俺の身長は172センチ。王司は180センチ以上はあるだろうが、体重は知らない。 「ぜんぜん。むしろもっと重くてもいい」 「……」  輝く爽やかな笑顔の裏にはこれまた気持ち悪いことを思っているに違いない。だいたい、女の50キロと男の50キロなんて同じ数字でも重さ加減を比べたらきっと男の方が重いと感じるだろ。……重さ比べとかした事ねぇけど。  というか、女と接触とか小学校以来してねぇけど!  そうだよ、俺は中学から男子校だよ!  まぁ女教師はいたにしても気軽に触るとか、その時の俺はそんなの出来る環境じゃなかったしな。 「だから大丈夫。俺をクッションにして、ね?」 「うわ、腕引っ張るなっ……!」  軽々引っ張られてあっという間に俺は王司の膝の上に座る形となってしまった。しかもこいつ今、正座だぞ……なにも敷かれてない床上で正座。プラス、俺の体重を含めるとあとがツラいこと、わかってんのか?  最初は麻痺して感覚がなくなってきて、そのあとに来るあの痺れはなんとも言えないぞ?……ってまぁ、こいつはそれが好みだから心配しなくてもいいのか。  しかし、ずいぶんと固いクッションだ。 「はあ……」  俺はもうなにも気にしない方向で溜め息を吐いたあとゲームを再開。腹に腕を回されていい感じの締め付けで支えられてるからか、俺は遠慮せず王司の上半身を背もたれ代わりに寄せる。10センチの差はあるだろう身長も、座ってしまえばわからない。  だからか王司の横顔がすぐそこにあって、俺の耳の位置にちょうど王司の口元があるような形になってしまい、王司の息遣いがダイレクトに来るっていう少し落ち着かない体勢なんだ。  これは、嫌がってた理由の一つでもある。いや、全体的に嫌なんだけどな。嫌なんだけど、どこか俺は流されてるような気がして、それが日常になってしまう。 「智志君」 「なんだ」  いい加減ゲームに集中させろボケ。 「何色が好き?」  突然の質問に、それはどんな意味が含まれてるのかわからなかったが、とりあえず俺は今やってるゲームのキャラクターである背の小さいヒゲ配管工おっさんの色『赤』と答えといた。 ――その数日後、ちょうどいた寮長から『中沢に宅配来てる』と言われて受け取り、箱を容赦なく開けてみると、 「なんだ?首、輪?は?……王司 雅也様へ――え?」  そこに入っていたのは赤色の首輪……とも言えるようなアクセサリー……とも言えるものが、入っていた。しかも俺の名前で来たにもかかわらず中に入っていた紙は王司の名前が書いてある。  それはもう、俺が王司になにかを送ったかのような感じで。 「王司、なんか来たぞ……」  嫌な予感を背負いながら自室にいる王司をノックして出て来させる。すると、 「やっと来た!やっと、やっと……これで俺は智志君のモノなんだねっ」  なんて嬉しそうな顔して言いやがった。躊躇いなくカチッと音を立たせてハメる首輪なのかアクセサリーなのかわからないもの。  つか、王司は俺のモノって……は? 「買ってくれてありがとう、智志君」 「……金はてめぇが払ったんだろ!」  日々の日常の結果、なんだかおかしな事になってるのが気にくわないな……!  

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