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客観的に見れば王子様

  ――ちなみにだが、俺と王司 雅也が同室者になったという噂は広がっていないらしい。 「そしたらさ、1組のA君と5組のB君が中庭のベンチで座っててさー。雰囲気がヤバかったんだよ。あれは絶対にデキてる」 「木下はなんでも二人組になってる奴等をくっつけたがるな」 「うるせぇ。俺が妄想してれば現実で本当にそいつ等が付き合うっていう謎現象が起きてんだ。松村もそうだっただろうが」  そこで俺が木下に、お前ってば平三と会長様の妄想までしてたのかよ、と言えば漫画を手に『中沢には何度も言ってたが、やっぱ聞いてくれてなかったのな』と返された。  改めて俺、元同室者の平三、特待生で一人部屋の木下は同じクラス。  平三とはよく一緒にいるけど木下に関しては王司関連以降、前よりよく絡むようになった。  平三と木下はもともと仲が良かったみたいで、突然三人になったことについては俺達の間で疑問に思わず、でも他の奴等からしたら疑問だらけだとか。  まぁ言えば世の中顔面格差社会だ。  俺だろ、俺。  わかってるっつーの。周りも頷く平三の顔の良さに木下もよく見ればイケメンだ。  平三より顔面ランクは下だと誰かが言ってても基準が平三ならイケメンに変わりないし、なにげに気配りが上手い木下は性格で心を奪われる奴もいる。  あ、うん、男にだけど。  そんな二人が俺と一緒によくいるんだ。二人の間に立ったら死ぬほど恥ずかしいぐらい普通過ぎる顔面持ち主の俺といるなんて信じられないとか思ってんだろ。  これが原因で濃密だったのか、さらに濃密過ぎると思う王司との件は校内にバレてないらしい。 「あれだよなー。きっとバレたら中沢は可哀想な目にあうだろうなー。イジメ王道、ってな」  ふっ、と鼻で笑う木下。続いて『ま、今それは出来ないだろうけど』とボヤく。  そんな小馬鹿な態度になんだかイラつきながらも頭では少し納得する俺。平三の時がそうだったからな……。  大きなイジメはなかったが、物がなくなる程度は何度か。  ドラマや漫画みたいに暴力的なものがなかっただけマシだと無視してたけど、平三がすごく気にかけてくれてたのは記憶にある。  でもその数日後からなにも起きなかったから不思議だ。――って今思ったら、 「あの時から平三は会長様と付き合ってたりして……」 「うっわ、もうこの子俺やだ……なにも聞いてくれてなかったとか」  こいつが会長様に相談して止めさせたのか?  いや、だとしたら単純に生徒会ってどんだけ力持ってんだって話だ。 「まぁまぁ。中沢も悪気があってスルーしてたとかじゃないんだろ?」 「あぁ、それはそうだが……最近になっていろいろ発覚しまくってるような気がする」  窓越しで雲ひとつない快晴の空を見上げながら呟けば、二人から総攻撃。あの木下までも俺にガヤガヤ言ってきた。  普段はおとなしい奴なのに……と、そこで、まだ授業が始まるチャイムも鳴っていないのに次の担当教師がやってきて騒がしかった教室も次第に静かになっていく。 「悪いなみんな、俺ちょっと会議出なくちゃいけなくてさ。だからこの時間は自習だ」  そう言いながら黒板に大きく〝自習〟なんて書けば教室中が急にうるさくなった。そのうるささに教師は大声で『ちゃんと自習をしてろよ!静かにな!』と言い放ち教室を出て行く。  この歳で自習という文字を見て静かにするわけがないのに。でもうるさくてもまだ時間じゃないからうるさいままで、俺達も解散することなく喋っていた。なるべく王司の話を避けてきた俺だがこの学校にいる限り、嫌でも耳に入るのは王司の話題だ。  三人で爆笑してても耳に入ってきて本当に頭が痛くなる。  なぜか?  本当の王司 雅也という人間とかけ離れてる憧れ人間に変換されてるからだ。 『王司君が今日、放送室にいて初めて放送委員でよかったと思えた』 『さっき王子様が教室で寝てるところ見たんだけど、寝顔も美しかったな……』 『王司 雅也になら掘られてぇな!』 『絶対に王子様って優しくリードしてくれるっつの』  などなど。  ツッコみどころ満載過ぎて腹筋がやられるかと思った。が、納得するものも確かにある。  カッコよくてスマートだし、頭は良い。なんでも譲ってくれるから優しいとは思う。俺を掘ってくれ、なんて頼み込めば噂通りのバリタチ野郎だから突っ込んでくれるだろう。  寝る前の顔はスイッチの入ってない王司で良いと思うし、起きた時の顔も全然変な顔じゃなくていつもとはまた違う爽やかな王司に会えるから、美しいのも頷けるんじゃないか?  全部が全部、納得するものも、確かにあるんだ。 「お、今日の王子様クラスは体育か」  二人となんとなく話しながら王司について考えてると前席の窓側で数人と話していた男が一人、ふとグラウンドを見て呟いた。  その呟きに一緒に話していた奴等も視線は外に向いてて、自然と王司の話題になる。 「有名人って大変だよなー。本当の芸能人じゃないのにサインくれって言う奴いるらしいぞ」 「松村、お前もそんな感じだけどな」 「俺はサインとか頼まれた事ないから」  数人のグループに流れて木下と平三もグラウンドにいる王司を眺めている。  もうこの学校では、有名人=カッコいい、みたいな流れなのだろう。黒板に書いてある〝自習〟の文字を見ながら、俺は思う。 ――変態を、見抜けないのかと。  

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