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打ち明けてやろう

   基本的にここの学校は屋上を使えない。  この時代で使えないなんて普通だ。出入りを許されている生徒は会長様ぐらいだろうが、その会長様も使う機会がないらしい。  平三が言っていた。  屋上が使えなければどこに向かうか――それは、どこだろうなぁ。 「俺はセックスを知らない……」  他の事を考えながら口から出た言葉は全く考えてるものとは違うものだった。 「……智志?」 「おい大丈夫かよ、頭」  ドコッと壁に頭をぶつけながら動かずにいると一緒にいた平三と木下が俺の発言について首を傾げる。木下については漫画を読みっぱなしで上辺だけの心配だが。  常に上位である木下に顔がいい平三が授業をサボっていてもそんなに責めない教師。平凡でなんの取り柄のない、強いて言えば菓子作り程度の俺も、授業をサボってもなにも言われない。  理由は一つ、目立つ場面がないからだ。  それにそんなにサボらない俺だし、怒られるわけがないんだ。  屋上は使えないがその階段の踊り場は結構、穴場だったりする。  みんなは“屋上は使えないし意味ないから他の場所にしよう”なんて考えてるみたいで今ここにいる俺達はたまに利用する最適な場だ。  ただデメリットを言うなら少し喋れば響くってことだろうか。 「さっ、智志どうした?病み上がりだからか?放課後なにか菓子作ってって言おうとしたけど空気読んだ方がいいか?」 「……」 「あ、読んだ方がいいのな」 「随分とお疲れのようですねぇ……中沢、さ・ま?」 「……」  こんな俺の態度を見たことがないせいかどうすればいいのかわからない、と言うようにおふざけをやめる平三に対してどこまでもふざけてくる木下の顔はやけにニヤニヤしたもので、読んでいた漫画本を閉じていた。  めずらしい……じゃ、ねぇよ。 「中沢様?なんだそれ」 「あぁ、こいつの同室者って王司だろ?んで──んぅ!?」  なにかを、平三が知らない事を言おうとしてる木下にハラハラして慌てて……だけど叩くように口を手で塞ぐ俺。  ヒリヒリと痛む手のひらに溜め息を吐きながら、そろそろ腹を括ったほうがいいような気がしてきた。 「木下……俺まだ平三に言ってない事があるんだ……」 「っ、は?」 「え、なに、なんなんだ?」  塞いでいた俺の手を無理矢理、剥す木下は意外でしたっていう顔。  お前にも話してないところはあるぞ……あるけど、俺自身がもう言ってないとやっていけない窮地に立たされてるというか……。  またドコッ、と壁に頭をぶつけて淡々と流れを喋る事に決めた。 「いや、平三が部屋を出て行ったあの夜、俺寝落ちしたんだよ。で、起きたら王司がいてさー」 「うははっ、起きたら王子様とか。松村も教えてやればよかったのにな」 「俺だって知ったのはあいつの部屋に行ったすぐあとだ。知ってたら教えてるって」 「まぁもうそこはいいんだよ。目を開けて立とうとしたら、なんか俺の足下(あしもと)に王司が寝転がってな……」 「……」 「……」  初っ端からで申し訳ないが、ここは木下も知らなかったな。  笑いながら俺の話を聞く木下はきっと平三の反応も楽しみにしていたんだろうよ。だけど最初の出来事は話してなくて、ショックで強烈だったキスの話を先にしたから。だから寝転がってる王司、と聞いてお前も真顔になっては黙ってんだろ?  そう、二人は黙り込んでいる。  このまま茶々を入れられながら話すのは長くなるからそのままでいてほしいんだが。 「……立つ時ってやっぱり足に力入れるだろ?こう、踏む感じで。だけどおかしかったんだ。固い床がふにゃって感じで柔らかくて……なんだ?と思ってもう一度強めに踏んだら変な声が聞こえてさ……今思えばあれって“感じた声”だったのかな、って思って……」  あぁ、思い出すだけでも見えてる景色が遠くなる。――目の前は壁だけど。  鮮明に覚えているなにもかもの事。ネタばらしで“感じた声”とか言ったけど、まだ二人はわかっていないんだろうな。 「んで、王司の奴……爽やかな笑顔で、よろしくとか言いながら握手を求めて右手を出してきたんだ。ただな……その両手首には、手錠がハメてあってさ……」  本物らしいあの手錠はあれ以来、目にしていない。王司の自室のどこかに眠っているのだろうが、見ていない。そもそもあいつの自室に入ろうとも思わない。  だって怖くないか?  あの部屋には俺が使っていたマットレスがある。あいつは、俺が使っていたマットレスで寝ている。例えそのマットレスの上に布団が敷いていたとして、使っているんだ。……な、怖くないか? 「あの有名な王司 雅也だし、なんか手錠ハメてるし、だけど普通に笑顔で挨拶してくるしで俺が常識外れなのか?って思ったまま落ち着こうとお互い座ったんだ……まぁそれで、なに、木下が知ってる展開になったわけだが……」  端折った俺の話に平三は変わらない無の表情のまま首だけを木下の方向へ動かして『なにがあったんだ』と言いたげな視線を送っていた。 「あ、あぁ……キスな……キスされたんだよな……」 「そー。俺の、ファースト!キス!しかも舌入ってきたものな……」  ははっ、と力ない笑いに言ってやれば平三の無表情が崩れた。 「はっ、なに、そんな事が……」  右眉をピクピク痙攣させながらも動揺を隠すような態度。  まだまだあるぞ、こんなの序の口なんだぞ。とか思いつつもしょうがない反応か?なんて自分を納得させる。  ここで立ち止まっててもしかたない。 「信じられないかもしれないが、王司はM体質なのかもしれない。言ってたんだ、周りが王子様王子様って上げたままで当の本人は、はしゃぐにはしゃげない不満足な高校生活を送っていた時に俺が“ある事”であいつの背中を蹴っ飛ばした事があって──それが、良かったって……」  今の俺はきっと白目だ。呆れた顔に白目状態で二人と話していると、そんな二人も驚愕しながら俺と同じく白目状態で声も出せずにいた。 「俺が、奴の扉を、開けたらしくて……」 「ちょ、ちょっと待てよ中沢……俺そこまで聞いてねぇぞ……」 「まぁ、キスされたあとで俺も初めて聞いた事だしな……俺あいつと接点あったんだ……」 「……智志、これはシリアス雰囲気でいくか……?」 「へーぞー……それはこの後の話を聞いて判断してみてくれ……」  俺の返事に二人はゴクリと息を飲む。  

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