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それでも相手は女、の子
平三と木下の顔が良い事ぐらいわかっている。そこで俺みたいな奴が入ってきて、どうしてあいつが?なんて視線には慣れたものだ。
ただちょっと言葉にされるのが久々過ぎて衝撃が大きかっただけで、もう今は全然大丈夫。
女の子に返せる言葉なんて、
「……案外、顔面って関係ないんだぞ?」
このぐらいだ。……ちょっと自信なさ気な口調にダサいとは思うが、そこは女の子でもわからないだろう。
「お兄ちゃん、弱気な答えだよ」
「ははっ、くっそー!子供のくせに言うなぁ!はははっ!」
クソガキめ……マジでストレートに言うな。
子供の扱いなんてわからねぇし、俺の乱暴な口もどこまで吐いてれば許されるのかが全くわっかんねぇ!
しかも女の子だ。
そばに親がいてどうのこうので大騒ぎされたらたまったもんじゃねぇよ。
「とりあえず、俺とあの二人は“友達”だから一緒にいるんだよ」
「お兄ちゃんが“友達”だと思っててもあの二人はわからないよ」
「お前はなんだ?ストレス溜めてんのか?」
絵本をずっと持っている女の子にお菓子作りのレシピ本を開きっぱなしな俺。
なんだか話し込んでしまいそうで持っていた本を棚に戻して女の子の目線に合わせて俺は腰を下ろす。目線が合ってさっきよりも話しやすくなった気がするが……。
「ストレスなんてないよ。思った事を言っただけだもん」
「あ、そう。お前も友達いるだろ?どんな子だろうが“友達”なら一緒に遊んだりするだろ」
「……」
「ん?」
そこで俺と女の子の間に沈黙が出来た。
外見だけなら本当に可愛い子供だな。目は大きくて小さな口、鼻も子供ながらスラッとしていて髪の毛はサラサラ。まつ毛も長けりゃ頬っぺたなんてもちもちしてそうな見た目。
小さい子特有のいいパーツだ。だけどこの子は将来……そうだな、思春期な年齢になってもずっと可愛いままなんだろうな。
それか綺麗系な女の子になりそうだ。
こりゃ両親も美男美女なんだろう、と予測できる。
なんてジロジロ見るように女の子の返事を待っていたが全然来ない。それどころか表情が暗くなってきたような気がする。
さっきまで強気な発言をしていたマセガキに見えていたのに、弱々しくなってる……気がする。
「おい、どうした?」
声を掛けても絵本を持つ手に力が入るだけ。
もしかしなくても俺はなにかまずい事を言っただろうか……。どこに地雷があった?
なんて思っていると、
「あたし、トモダチなんていないの」
そう言った。
俺との目を逸らしながら、小声で、力のない言葉。
まさかここで暗い展開が舞い込んで来るとは思わなかった。友達がいない、とはどういうことなんだろうな?
性格は除いてもこんな可愛らしいガキはそうそうにいないだろうよ。だからきっと子供ながら人気者で遊びの約束もいっぱい持っていそうな子なのに、友達がいない、と。
はぁ……考えてみても結論は、俺が慰めてやれるわけがないってことだ。この子に友達がいない理由なんて知らないし、知ろうとも思わない。
ただまぁ、あり得るとしたら、可愛過ぎて綺麗過ぎて絡みたくてもみんなから一線置かれてる、という王司みたいな理由だろうけど……こんな歳の子でもそんな世界があるのか?
あるとしたら、さすがに可哀想だ。
「俺も確かに他人様は周りにいるけど、親がいないからなー」
「おや……?ママとパパ?」
持っていた鞄の中身をあさりながら女の子に『そー、ママとパパ』と返す。
友達と血の繋がりのある身内を例えるのはどうなんだ?なんて思うものの、俺の限界だったからしかたがない。
他に例えるのが難しかったし、女の子の歳も歳で理解してくれるかわからなかったからな。
「寂しくないの?」
「あー、どうだろうな?今は少なくとも寂しくないぞ。だからお前もそんな顔するなって。まだ若いんだからさ」
無理矢理過ぎる結び方に自分で呆れながらも鞄の中にあった一つのカップケーキを取り出した。イチゴのカップケーキだけど、食えるよな。
「学校なんて小学校だけじゃないんだから友達なんていっぱい作れるっつーの」
はい、と渡して頭を撫でる。
同時に女の子の後ろから母親らしき女性が声を掛けてきた。
「これから……?」
「そうそう、これから。それと美味いよ、そのケーキ」
そう言って俺は立ち上がって手を振る……というか、追い払うように手を振った。
それと今回のカップケーキについては本当に自信作だから、自分で言うのを許してくれ。――あれは美味い。
去っていく女の子は母親になにか言ってて、それを聞いたらしい母親は俺に向かって頭を軽く下げてきたから俺もつられて頭を下げる。
この短時間で、戸惑って改めてショックを受けて暗い空気から沈黙打破のためにこじ付け論をあの子に教えちゃって、適当だったが会う事もないだろうなんてゲスな考えもあるけど、まぁいいか。
「智志君?」
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