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壊された鍵
朝。
「ん、雨……?」
普通に雨が降っていて、
「っ……うわぁ」
「さと、しくん……ん」
――普通に王司が俺の部屋で寝ていた。
「付けた鍵が壊されてた!?」
「王司のキャラやっべぇ!メモるか?メモろうか!?」
昼休みの過ごし方なんてみんなそれぞれで、だけど多いのは教室か学食。
外では中庭などが評判なこの学校に、あまり知られてない穴場がある。それが屋上に繋がる階段の踊り場。たまにサボる時でもここを使うが、一つ言うなら少し喋れば響くってことだ。
それさえ気にしなきゃ最高の場。
だが今は昼休みであり、そんなのも気にせず俺と平三と木下は売店で買ったパンを食べながら今朝の出来事を淡々と話していた。
「でもあいつにしちゃよく出来たっていう場面もあんだよ」
「俺からしたらもうその時点でアウトだっつの」
「中沢のよく出来ましたラインが一般的に考えて失われてるぞ」
そうだろうか。……そうかもな。
確かに起きて寝返りしたら王司がいた、っていうのには驚いたが寝起きの頭はそこまで回らなくて、普通に『あ、こいつ床で寝てやがる。成長してるな』ぐらいにしか思わなかった。
もう、ここからがダメなんだろうな。
今だから考えられる俺の行動はまず喜ばれてもいいから、って思いながら王司を蹴飛ばすことだろ?
そうだな、脇腹は当たり前で鳩尾辺りもいっとくかもな。
そのあとに寝起きの声で、なんでいるんだよ、ぐらいは言って王司を無理矢理立たせて部屋から追い出すはずなんだ。
ちゃんとした俺なら、の話だけど。
「……床で寝ていたところを、俺はよく出来たなって思ってさ」
思い出すように二人へ語ってみたものの、ほとんど食べ終わってるパンは空の袋ばかり散らかっている。
「ほら、やっぱりアウトじゃねぇか」
「智志のなかでそれがよく出来たっていうのか……」
「あいつならベッドに潜り込むと思ってたんだけどな」
「あぁ、サラッと言っちゃうのがもう俺の知ってる智志じゃなくなってるっていうのだけはわかった」
うっせーな、そこは自覚してんだ。……だけどな?
寝起きには勝てねぇよ……。
「で、なんだ……中沢はそのまま王司を起こさず部屋を出たと?」
木下が飲み物のストローを口にしながら聞いてきたから俺は素直に頷いた。
うわ、王司がいる。……とは確かに思っていた。
思っていたが俺はベッドから立ち上がり、殴るわけでもなく蹴るわけでもなく王司 雅也という人物をスルーしてドアノブに手を置く。そして、鍵の確認だ。
何度も言うように俺が買って俺がわざわざ付けた鍵は内側しかかけれないし開かないような仕組みの鍵。普通のを買うと王司の事だから合鍵を作りそうだったからちょっと特殊な種類の鍵を選んだんだ。
なのに、こいつは今現在、俺の部屋に入ってきてて床で寝ている。
俺が昨日、鍵をかけ忘れた?
いいや、それはない……どこか王司に甘くなってきてるからって王司 雅也をナメてたら俺がきっと酷い事になるからだ。
後悔だってするとわかっているから、ちゃんとかけていた。つーか確認もしたしな?
じゃあそれなのになぜ王司がいるのか。
よく見ればドアノブに付いていたつまみが俺の知ってるつまみじゃなくなってる、ってそこで気が付いたんだ。
いつ壊したかわからないが、たぶん前から壊されていた、と。
それじゃあどうして昨日は鍵をかけれたという確認が取れたかって?
同じようなつまみを用意して新しい鍵を付けたんだろう、王司が。
その新しい鍵はよく見慣れてる銀の鍵で、それさえあればここの部屋を自由に開けることが出来る、普通の鍵を付けたんだろう。
今まで気付かなかった俺がバカだった。
「そこまで理解しといて王司になにも言わずメシ作ってたとか……智志お前どうした?」
「知らねぇ」
紙パックの烏龍茶を行儀悪くもズズズズッと音を立てながら吸い上げる。
目玉焼きを焼いていた時にやっと起きてきた王司。
眠い目を擦りながら、俺の部屋から出てきて『おはよう、さとしくん』と甘ったるい声を出す王司に『おー』と短めに返事。
この時も頭が回っていなかったのか王司を問い詰める事はせず、顔洗ってこい的なのを言ったような気がする。
だんだん頭が覚醒してきて、ん?と思った時はもう手遅れ。
学校で、朝のホームルームが始まっていたからだ。
「なんか無意識に王司を許していってねぇか?この間の本屋も先に帰ったのって王司と会ったからだろ?」
「お、なんで木下も知ってんだ?見た?」
先に帰る、とはメールしたが“王司が来たから”先に帰る、なんて打ってないはずだ。
「いや、会長もいたから」
俺の質問に答えた木下はさらに続けて『俺と松村と会長の三人で仲良く帰ったんだよ』とげっそりした顔で言っていた。
木下にしてはめずらしい表情だ。
目の前にお前の好きなジャンルがあるっつーのに、あの時は疲れましたってオーラがだだ漏れ。
あ、まさか――、
「平三と会長様って人前で気にせず熱々なっ……」
「んなわけあるか!」
すかさずツッコんできた平三に木下も笑いながら俺の思いを否定してきた。
「違う違う。帰る、ってまではよかったんだが会長がすっげぇ俺の事睨んでくんだよ。睨まれ過ぎてなにも出来なかった……」
「なにもすんなよ……」
呆れた表情で木下を見る平三。
なんだかんだで平三と会長様は仲が良いらしい。
否定しないのがまたなんというか……。
つーか、昨日の夜に作ったクッキー、なんとなく失敗したものだがこいつ等にあげようかどうしようか迷うな。
王司の奴、上手く出来たものだけ食っちゃうから形が悪いのしかないんだよなぁ。
「……はあ、」
鍵、どうすっかなー……。
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