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壊された鍵
* * *
結局、朝から降ってる雨は夜の今でも降り続けていた。
今日は体育の授業がなかったから授業内容の変更はなかったし、昼休みの時点でなにか解決策がないか考えてみたが――おとなしく教室へ戻った俺達だった。
でも床で寝るという理解力はあるから、もう鍵は必要ないのかもしれないな。……いや待て、こういう考えだから王司に隙を作らせてまた変な事をされるんだろうなぁ。
もういっその事、一回だけ王司が満足いくまでヤられてやるか……純粋に寝てるだけかもしれないし。
これ、賭けみたいで疲れるぞ……。
授業内容なんて全く頭に入らなくて、だけどそれだといけないと正気に戻りつつも、またすぐ考えるのは鍵の事。
短い間だったがあの鍵のおかげで随分と安眠出来たのにここまで考えさせられるとか、今までの王司の行動を振り返るとやっぱり鍵なしでは寝れないと判断。
そして英語の担当教師が『高速回転することで――』と問題文の解答を日本語で生徒達に教えてる中、閃いてしまった。
「王司、ちょっといいかー?」
王司の自室ドアを二回ノックして返事を待つ。
すると中から派手な音を聞こえながらも開いたドアに多少驚き、俺は王司の顔を見上げた。
「さ、智志君、どうしたの?」
「いやぁ?別に、」
なんて言いながら王司の部屋を覗くように頭から入る。
恐る恐る入るのはしかたない事だと思ってくれ……俺が使っていたベッドがとくに怖くてあまり直視出来ないんだよ。
ゆっくり見渡し、なにかおかしなことをやっていなかったか確認しつつ『入るぞ』と一言。
勉強机とセットの椅子が壁に倒れ掛かってるだけで、あとは安心して王司の部屋に入れた。つーか、王司が同室者になってからここに入るの初めてだな。
平三の時は何度も入っていたが……人が変わるとここまで違うんだな。
「お、勉強してたんだな」
「あ、うん……」
どこか吃る姿を見せる王司。
たぶん今朝の事を言いに来たと勘違いしているんだろう。だが心配するなよ王司。合っているが、その解決をしようと来ただけだ。
お前が喜ぶような殴りや蹴りもやってやらない。けど、喜ぶような考えは、ある。
俺が部屋に入り切ったところで王司はゆっくりとドアを閉めた。
なにも喋らないと雨の音が耳によく届いて居心地良くなる。
ま、そんなの関係ないけどな!
「智志君……」
少し緊張でもしてるんだろうか。
いつもより小声気味で、震えた声にも聞こえる。
これからが怖いのか、それともなにもわからずそんな声を出してるのか知らないが、どっちにしろお前の性格からして興奮するような事だから、と思いながら『どうした?』と。
なるべく笑顔で優しく、王司に振り返った俺。
「っ、あのさ、実はこの間、抜き打ちテストがあって、返ってきたんだ」
抜き打ち?……あぁ、小テストの話か。抜き打ちも小テスト扱いでいいよな。
「さっそくあったのか。お前のクラス大変だな」
ついこの間、テスト期間が終わったっていうのにまた数日後に抜き打ちテストとか。俺ならもう心折れてるわ。
でもこいつは天才だから楽勝なんだろうな、なんて思いながら鞄の中から見覚えのあるサイズの紙が出て来た。
渡されるような感じで解答用紙を見れば溜め息が吐きたくなるほどの、赤い丸。
全ての問題を解答してて、満点を取っていた。
「お前って変態なのにすげぇのな……」
「変態は否めないけど」
そこは否定しとけよ。
いつだか王司自身、俺は変態だ、とか言ってたけど、そこは一応なんとなくでもいいから否定しとこうぜ?
「でも智志君が言ったように、取ったよ。俺先生にも褒められた」
「そうだろうよ……会長様と同じクラスなんだっけ?トップが二人もいたらそりゃ先生も喜ぶっつの」
そう言ったら王司は少し不満そうな顔して『会長より俺の方が点数よかったけど』と漏らした。……こいつが本気出せば本当に会長様まで抜くんだな。
会長様は果たしてどんな気持ちだったのか……プライドっていうものもあるだろうに。
だけど王司をどこか認めてるような言い方もしてたし、なにも感じてないのか?
むしろ心の中で俺を褒めてたりしてな!
スイッチ押してくれてありがとう、って。
「そうかそうか、この調子で頑張れよ」
「うん」
貰った解答用紙を王司に返して、本題へ。
きっと“ある物”はベッドの下だろう。
恐怖まみれのベッドに座り、腰をおって頭を下げればいかにもな白い袋をベッドの下から発見。
それを手にしようとしたら王司に止められた。
「智志君さっきからどうしたの?」
「あぁ?どうしたもこうしたもねぇよ、鍵壊しやがって。つーか新しく付けて、てめぇが出入り出来ちゃ意味ねぇんだよ」
「……」
俺がなにも言わないと思ったか?
こういうところはバカなんだな。
掴まれた腕を振り払って白い袋を取り出し、中身を確認。するとそこには、待ってましたの物。
「ベッドの下に手錠か……手錠の鍵は机の引き出しとかだろ」
「……ほんとうに、どうしたの?」
「お前の目がどうしたんだよ……」
俺が手錠を握ったその瞬間、王司の目が変わったような気がした。
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