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手錠様とご対面
感動もなにもなかったこの空気に、ただ隠し持っていた手錠を俺が手にした瞬間、王司の目はいっきに潤い、そして微かに黒目が動いた。
動揺した時みたいな泳ぎ方じゃないのはわかるが……。
「お前さ、あれから手錠でなにかやったか?」
「いっ、いや……触っても、ないよ」
「そうか……」
嘘だろうが本当だろうが俺には関係ない。今の俺には、な。
まさかこんなところで役に立つと思わなかったぞ、手錠くん。
後先のことを考えるのはもう止めてて、とにかく王司を気にせず安眠出来る策のためだけに頭を動かしていた。辿り着いたのは英語の授業で教師が読んでいた『高速回転することで――』という文。
高速回転→高速→こうそく→拘束。
そうだ、王司を拘束しよう。
「俺ってばマジ頭良過ぎ……」
ボソッと呟きながらベッドの足に鎖部分を通す。
これだけ見れば、お前なにしてんの?なんて思われるが、ここからだ。この二つの輪っかに王司の手首をハメれば動けなくなるだろ?
この際だから手を後ろにして手錠をハメるか!
あ? ベッドを浮かせれば取れる?
違ぇんだよ……寮全体の全ての部屋に置いてあるベッドだけは動かせないようになってんだよ!
だからマットレスはなにかしらの理由があると変えてくれたりする。
ふっ……考えが冴え過ぎて震えてくるな。
「よし王司。お前ちょっとこっち来い。んで座れ」
雑に言えば王司はベッドの足にくくりつけた手錠をガン見。今なにを思ってるかなんて知らないが、察しようともしない俺。
ゆっくり近付いて来る王司がもどかしくて手を引っ張り座らせ、あとは簡単――手錠をハメるだけ。
想像していた通り、手を後ろにしてハメれた事に嬉しく思い満足する。
「酷だろうが今日はこれで寝ろ」
「え」
「心配するな、掛け布団はかけてやるから。枕も置いとくぞ。トイレは……あー、一晩ぐらいなら我慢出来るだろ?」
「……」
なにも出来ない王司に俺は調子に乗りながら頭に手を乗せた。
なんだか格好だけ見ればいけないことしてるみたいだ……手錠ひとつでこんなにも変わるんだな。いや、あとは王司の雰囲気か?
がらり、と変わったもんなぁ……。
どう変わったかと聞かれれば、さっぱりわからんが。
兎にも角にも俺はこれで寝れる。まだ寝る気はないが余計な考えなしで寝れるな。
あ、喝でも入れとくか。
「王司が鍵を壊して新しく付け直すからいけないんだぞ?日頃の行いが悪過ぎて信用なくした王司が、自分が悪いって。今後もされたくなかったらちゃんと過ごすんだな」
「さ、とし、くん……」
「じゃあな、」
頭に置いていた手を離して、王司の部屋から出て行こうとした。
果たして、俺は王司に伝いたいものを伝えることが出来ただろうか……ようは、俺の部屋で自慰するなって事とオナるなって事とマスターベーションするなって事。
伝わればいいな。
「智志君……智志くん待って、待って待って待ってッ」
手を離し、王司に背を向けた瞬間、こいつは器用に自分の足で俺を引きとめてきた。危うく転びそうになったがなんとか耐えてもう一度王司へ振り返る。
「……っ、なんだよ」
「智志くん、智志君、さとしくん待って……?ここにいてよ、俺ずっと智志くんと一緒にいたい……なにもしないだなんて、それもいいけどっ……最初ぐらいは、」
「てめぇはなに言ってんだ……」
気のせいだろうか。
さっきから俺は気のせい気のせいと、曖昧なものでその場をスルーしていたが、はやりこれも気のせいなんだろうか。
「さとしくん、さとしくんっ……おねがい、かまって?」
なんで、なんでこんな時に勃起してんだよ、王司。
そりゃこういう状況は王司にとって興奮材料の一つだとわかっている。俺も俺で拘束されてる王司に心の余裕が持てるし、俺達はお互い良い事だろう?
良い、こと、なのだが……そもそも王司が変になるなんて思わなかったもんなぁ……。
もちろん興奮はするだろうけど、予想以上だ。
「智志くん、まさか智志くんからやってくれると思わなかったよ。いつかは、って……だけどさすが智志くんだよね。そんなさとしくんが、好き。俺にそういう態度出してくれる智志君が大好きッ、」
「……」
引きとめてきた足は逃がさないためなのか俺の両足と絡むように王司の足が回ってくる。
いきなりとはいえ少し――いや、かなり――おかしくなってる王司から逃げればいいものの足を動かさず、むしろ近付いてる距離。
何度かこいつのモノは見てきたが勃つと通常でも大きいモノもさらに大きくなっているわけだから、当たる。
風呂も入り終わってるこいつは所詮、部屋着というもので過ごしてて、スウェットを穿いているせいか余計に勃起が目立つ。
息が荒くなってる王司をどこか気持ち悪ぃなと思いながら。
「はぁ……その引いた冷たい目も好き、さとしくんって顔に出易い?俺の事キモチワルイって思ってくれてる?」
思ってくれてる?って……。
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