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犬でも〝待て〟が出来る

  「期末テスト、来週だな」  平三が不意に呟いたその一言で、木下のテンションはマックスに達していた。 「まぁ、そうだな」 「ん?中沢が嫌な顔をしないってどういうことだ?」  昼休みにいつもの穴場で、売店にて買ったパンを三人で食べていた。とはいえ、もう食べ終わりそうなんだが。  日というのは面白いぐらいにはやく流れる。  思い返せば平三が部屋を出て行き、王司が同室者になって、王司 雅也の実態を発見したと思えばその違和感はないほどの日常に変わってて、二ヶ月が経っていた。  平三や木下だけでなく他のみんなも夏服用の制服に変わっていて、教師達もスーツだとクールビズを解禁している時期にまで変わっている。  つまり、なにが言いたいのかというと平三が言ったように、期末テストは来週でそれが終わればみんなの帰省期間である夏休みになるわけだ。  俺からしたら、休日と変わらないものだけど。 「会長が言ってたぞ。抜き打ち含めた小テストやあてられた問題は全部答えられてて完璧だ、って」 「あてられた問題も答えるって、あいつ頭良いんだから当たり前だろ?」 「いや、やる気がない王司はいつも適当だったらしいよ」  二人が話す王司 雅也。会長様を通じて知る二人。  確かに、あってる。  スイッチを押す前の王司はそうだったかもしれないし、スイッチを押した後の王司も俺が見る限り満点を取って来るし、教師達からもさらに王司の名前を口にするようになってきている。  押した本人の俺は、小テストは平均点数で教師達にもとくに目立つような行動を取ってない俺だからなにか喋るわけでもないんだが……期末前だというのに、王司はここ三日間ほどしつこい。 ――今晩は一緒に寝てもいい?  そう聞いて来るのだ。  朝起きてからにしても、ご飯食べてる時にしても、放課後の部屋にしても、寝る前にしても、ずっとずーっと聞いてくる。  一日に何度聞かれて、俺が何度断ってるか数えてやろうと思ったがあまりの多さに諦めて首を横に振ることに必死だった。  まぁ、だから、なんだ……今の俺は期末テストを心の底からはやく来いと願う変な学生になっている。あれほどしつこくなる理由も、わかってんだけどな……。 「俺は中沢が泣く勢いでどうしようどうしようって慌てる姿が見たかったよ」 「たぶん今の俺には耐久性がついてるから無理だな」 「どちらにせよ、これで生徒会も安定するし、智志のおかげじゃないか?」  俺が、変わりつつあるから、しつこい。  王司もそれに気付いてて、今までよりもさらに近付いて来ようとしている。  食べ終わったパンの袋をまとめて、そろそろ教室に戻ろうかと話しながら立ち上がる俺達三人。次の授業は教室移動のはずだからはやめに行こうとした。  メシを食ったせいか欠伸が止まらず、またもや大きく口を開けては平三の話に相槌したり木下に反応したりで階段から下りる。  全く合わせる気のない足音に気のせいながらも目が覚めてきたんじゃないかと錯覚するレベル。――と、思っていた。 「あれ、誰かこっちに来てるっぽくないか?」  木下の言葉に俺と平三は歩いていた足を止めて耳を澄ましてみる。……微かに聞こえる。  どんどん近付いてきてるからこれは階段を上ってるのか?  手すり部分から顔を覗き出して下を見ると隙間からだんだん人の頭が見えてきた。見えたのは黒髪の三つの頭。  

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