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犬でも〝待て〟が出来る
「――そもそも俺に鍵なんて渡されても使い道がないから邪魔なだけなんだけど」
それと聞こえてきた、声。
平三も木下も聞こえたのか俺に続いて顔を出して下へと覗く。
「……あ」
二人が見た時にはもうその三人の正体がハッキリとわかったんだけど。
「会長さんに副会長さんに、会計さんじゃないか」
上ってきた三人に話しかけたのは木下。
手を振りながら名前じゃなくて役員名で呼んだのにはなにか理由があるんだろうか……いや、ないな。面白半分で呼んだんだろうし、つーか会計さんってことは……飯塚先輩がいるってことか!
出していた顔を素早く引っ込めて知らないフリをしながら若干、木下との距離を置く。
親友だから殴られないとわかっていても実際また会ってしまったらなにをされるかわかったもんじゃない。もう怒鳴られるのは勘弁だぞ……。
やっと俺達と対面した会長様と飯塚先輩と、王司。
気のせいでもなんでもない事なんだが、穴が開きそうなくらいの勢いで視線を俺に向けてくる王司をなんとかしたいな……。
でも飯塚先輩がいるし、王司からしたら平三や木下もいるからそう簡単に話しかけてこないだろう。
問題は目に、視線に、あるだけで。
「平三にお前等……メシでも食ってたのか?」
「おう、結構、静かでいい場所なんだ。会長さん達は?」
木下の質問に会長様が制服のポケットから銀色の鍵を取り出して『変わってないかの調べ』と答えた。……屋上の鍵なんて教師代表の何人かが持ってるか、会長様が持ってるかのどちらかなんだから調べたってあまり変わってないんじゃないか?
とか、言わないけど。
飯塚先輩もいるし、会長様にそんな口を利ける余裕もない。
「……まぁどうせ変わってないだろうからドアを開けて閉める簡単な仕事なんだけどな」
「へぇ、そうなんですかー」
珍しくも冷静に喋ったのが、飯塚先輩だ。
相槌のつもりなのか平三が返事をしていたがどう聞いても適当過ぎると思うのは俺だけだろうか……もしくは木下を心配して冷たい態度なのか?
――ま、それはないか。
当の本人は漫画をいつの間にか開いてて読んでるし、飯塚先輩も怒鳴るようなものがない。
「あー……じゃあ俺達は先に行くな。教室移動の準備もあるから」
それほど話す事がなくなってきたのか平三がナイスなタイミングで別れようと口を開く。
それに対して会長様も『そうか』の一言で階段をさらに上り、ドアノブの鍵穴に差し込んで、それについて行った飯塚先輩。
「木下、危ないから漫画読むのやめろ。つーかこの先もう読むな」
「それは俺に死ねと言ってるようなものだ」
二人が先に階段を降りる。
俺もそれに続いて、一人残る王司にはなにも言わず、アイコンタクトもせず、足を動かした。
その一瞬、触れた手は王司が我慢出来ずに気持ちを押し殺してとった行動だろうけど、それに応えなかった俺は絶対に悪くない。
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