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犬でも〝待て〟が出来る

     *   *   * 「ねぇ智志君、一緒に寝たい」  あれから午後の授業も受けて、放課後は平三の買い物がてら俺も欲しいものがあるのを思い出して最後には木下の付き合いまでして帰って来た。  もちろん一瞬だけ触れたあとの王司とは、夕飯を食べる今の今まで会っていない。  今日も今日ですげぇ食うなぁ、と思いながら食べ終わる食器を重ねていた時、言われたしつこいもの。  今回ばかりは執着が酷過ぎて溜め息を吐くのも面倒になってきたところだ。 「この間から言ってるだろ、断ると」 「……だけど俺、他も頑張ってるよ?」  確かにお前からすりゃ頑張ってるんだろうけど、俺から見たら簡単にやり遂げててムカつくんだよ。……あぁ、そうだよ、完全に個人的な感情だ――悪いか!  努力や頑張りは、伝わってる。リビングにまで持ってきて勉強してる姿を見せつけてくるんだ。頑張ってるだろうよ。  前から出来ていたかもしれない満点も連続で取ってる化け物だしな。  だけど、俺がやる気を上げるために言ったものは“上位に載ったら寝る”という話であって、別に――小テストも頑張ってるからもう一緒に寝ようか!――という流れは、ねぇからな? 「残りは結果だけだろ、それまで我慢しとけよ」  結果なんて、もうわかりきってんだけどな。 「……結果は、わかってるよ。今回だけ俺は、一位だ」  うっわ、俺の予想と一緒だったとか……自分で確信を持つとか相当だぞ。  わかりきってる事なのに、それが当然だと知ってるのに、どうしてだか王司を自信家野郎と思ってしまう。  実際は自信があるからなんだろうが……。 「つーか、今回だけじゃなくてこの先も一位とかでいいんじゃねぇの?」 「それは……それもそうだけど生徒会長に推されちゃうし。会長なんて俺には無理だからね。今の会長の方がよっぽど適役だ」  重ねていた食器をやめて王司の話を聞いてみるが、ふーん、としか言えなかった。  そもそも生徒会でなにをやるとかが、よくわかんねぇし。  興味なさ気に反応したせいか王司も食べ終えた食器を重ねた後、端に寄せて『だから智志君、寝よう?』とぶり返してきやがった。 「ばーか、寝ねぇよ。結果を見て、良ければその日から寝てやるから」 「……その日から?」 「おう。楽しみが増えていいだろう?なにもしねぇけどな」  座っていた椅子から立ち上がり、ペシッと王司の頬を軽く叩いたあと食器を手にしてキッチンへ持って行った。 ――変わってきたのは、俺のノリ。  王司のおかしな性癖に少しながらもついてイケてる俺に、あいつも気付き始めている。  はやくやりたいのか、今すぐにヤりたいのかはわからないが、そのせいで最近しつこくなっているのだ。が、それも先であり、今は健気に面白いぐらいはやく流れる日を〝待って〟いた方がいいと思うぞ。  

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