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どう考えても俺の、

  「さすが我が校の会長だ!これからも王司をよろしく頼むぞ!」 「あ?あぁ、はい。もちろんです」  俺一人がヤバいやばいと焦ったまま少しはやめに学校へ向かえば見えた光景は、教師と会長様だった。  言わなくても期末なんて終わってて、周りはその解放感から放課後に遊びに行くのが大半だ。直後に終われば委員会はもちろん部活もない。  普段から寄り道せず寮に帰る生徒もその日ばかりは羽目を外したかったんだろう。  一緒に混じって遊びに行く話が俺の耳に入ってきた。  俺はというと、王司の約束で変なプレッシャーを感じながらもあとは今まで通り……いや、前回のテストより少しだけペンを走らせていたが、それでも成績はあまり変わらず140から150の間と予想している。  やっぱり一夜漬けほどツラいものはないな。  そして、なぜ一人で“ヤバい”と焦っていたのか……王司のお気に入りである赤いアクセサリー、チョーカーーーという名の首輪――が切れてしまったからだ。  付け馴染んできたのか多少、柔らかくなってる革製のそれは買った当初を思い出してみると固かったような気がする。  それがこんなあっさりと真っ二つに、もう二本の赤い革製のものに見えてしまうなんて誰が予想したか……。  王司が風呂に入ってる時、俺は洗面所の用事を思い出してドアを開けて入れば洗濯かごにさっきまで着ていた服が入ってて、やっぱりあいつは裏返しのまま放り投げるタイプか、と横目に用を済ませす。  さっさと出よう、と思ったがまた他のものに目がいき、手にした。それは王司の首輪だ。  自分で買っといて受取人の名前を俺にしながら中身はちゃんと“王司 雅也様”と書いてあった。  だから素直に、王司の物か確かめるために渡してやれば、あたかも俺からのプレゼントのように受け取ったあの時が今でも忘れられないぜ……。  あ、で、あれだ。  なんか、切れた。  掴み取ったら、切れたんだ。  どうしてかわからないが切れてしまい、焦って俺の部屋に持って行ってしまった。  考えてみりゃ素直に謝れば終わる話なんだけどな。 『ねぇ智志君、俺の首輪知らない?』 『あー……知らねぇな』  ここでもう引き返せなくなった。つーか“首輪”と認めてるあたりツッコもうとしたが、立場上そうもいかず目を逸らすのみ。  そんな俺になにも気付かなかったのか王司は少し悲しそうな表情を浮かべながら『そうか……』と呟いて終わった。  一晩中、切れた首輪は俺の手の中にあった。  そして時間も経ち、朝飯を王司の分だけ作って俺は学食で済まそうと逃げるように部屋から出てきて、今に至るわけだ。  俺の目の前には教師に無理矢理手を取られたのかぶんぶんと振られ放題の会長様はなにがなんだかわかっていない様子。  ただし、会話の流れで俺は察した。  王司 雅也のテスト結果が、良かったんだろうと。  去る教師に会長様は一息ついていた。 「会長様……あいつのことはどう考えても俺の、おかげじゃ……」 「あぁ、中沢か。はやいな」  いや、そこじゃなくてな?  切れた首輪をポケットに入れつつ、会長様と二人きり。周りに誰かいたら話しかけねぇっつの。 「教師が俺にああ言うのもしかたないだろう。今のところ中沢と雅也に接点があるとは考えにくい環境だ。一番近くにいるのは俺をはじめ、生徒会の奴等やクラスメイトだしな」 「やっ……そうだけども……」  期末が始まる前からほぼ確定していた約束も、今のを見てしまえば完全に約束を果たさなきゃいけない雰囲気とみた。――期末の結果を見て良ければその日から寝る。  そう伝えたせいで二人きりの時は常にその話を持ちかけてくる。  一緒に寝たい、なんて言葉は聞かなくなったが代わりにこんな事を言うようになってきた。 “手、繋いで寝てもいい?” “抱き着くのはいい?” “腕枕は?もしくはしてくれる?”  余計にうるさくなったような気もするが、ここはあえて触れない位置に置いときたい。 「ともあれ、俺から礼を言おう」 ――ちょっとした気持ちだ。  鞄から取り出しながら言った会長様は銀紙に包まれた丸い固まりが三つほど入ってる箱を渡してきた。 「ごっ、ゴディ、バ……チョコ……えっ!?」 「なかでも特製だ。お菓子をよく作ると聞いたから甘いものが好きだと思ってな」  渡されたこの銀紙の中身はよくもまぁ目にするチョコで、高いものだった。……特製だと言われてもこのチョコ自体、食べた事がないから違いなどわかるはずもない。  菓子を作るにしても甘いのが特別大好きとまでいかないから、会長様のお礼は灰になったも同然だ。  けど、貰えるものは貰っとこう。そしてこの際だから有名なチョコも食べとこう。 「……あざっす」 「それと、結果はわかっての通り金曜日。三日後だ。……一番上に名前がある事を祈ってるよ」  手を肩の上に置いて二、三度叩かれたそれはどこか重みのある、期待されたものに感じた。  俺に背を向けて階段をのぼる会長様はきっと生徒会室に行ったんだと思う。  王司から首輪の件で逃げるように部屋から出て来た俺はとりあえず飯でも食おうと学食へ足を運んだ。 「あ、」  そうだ……俺が壊したし、買ってやるか――。  

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