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お約束、一日目の結果

  「寝るのって、こんなに苦しかったっけ……?」 「んー、智志君……」  今の時刻は20時ちょい過ぎ。ベッドに入る前にスマホで確認したから絶対合っている。  不純過ぎるリクエストで作ったチャーハンをこれでもかというぐらい皿に盛って王司に食わせればはやくも完食。  適当に作ったチャーハンの感想まで言った王司に呆れながら『もう風呂に入って来い』と口にした俺の気持ちを誰が察してくれるだろうか……平三辺りがわかってくれると信じている。  やる事もやって俺自身が風呂に入ればあとは寝るだけという形。だけどこんなはやい時間に寝るだなんて、どこぞの小学生かって話だ。  いや、今どきの小学生でもこんな時間に寝ないでバラエティー番組を観てるだろうに。――こちらの王子様はそれを許してくれないらしい。  俺が風呂から出た時にはもう王司は部屋で待っていた。もちろん、それは俺の自室で。  問題となった鍵は王司に新しく取り付けられたままで安全もくそもありゃしないが、それも今さらだろ?  今の中沢 智志には王司 雅也に対して諦め以上の気持ちを持っているから。放置とはまた違うが、深く考えたら負けな気がしてな……。 「よかった、お前がまたオナってたらどうしようかと思ったわ」 「大丈夫、風呂で抜いてきたから」  綺麗な笑顔でなに言ってやがるド変態。我慢というものを知らないのか、こいつ。  そんな相手と俺は今日から一週間も一緒に寝るとか……いや、でも王司 雅也だし、しかたないのかもしれない。  こんな提案をしてしまったあの時の俺、死ね。三回ぐらい死んで父さんと母さんと、ついでに祖父母にも会ってこい。  なにも言えない俺とニコニコする王司がいつまでたってもこんなところにいたってしょうがない。  わかっている、わかっていた、と何度もしつこいほど気持ちをねじ伏せて、やっとベッドに入ろうとする俺に王司も入ってきたのだ。  電気をつけたり消したり出来るリモコンを手に取り、真っ暗になる部屋。体系は細身だが、172センチと180センチ越えの身長二人がベッドに入ると当たり前に狭い。  いつもは聞こえないギシギシという音も鳴ってて少し心配になる。シングルって、やっぱり一人用のベッドなんだな、と改めて実感。  無意味な実感をしたって今後なにも役に立たないんだけどな……。  ようは、くっそ狭いところで寝るぐらいなら床に布団敷いて寝た方がゆっくり出来る気がする。 「おい、王司……離れろとは言わない」  むしろ離れる事が出来たら俺から離れてる。 「だが、そうも手足を絡めてくるなっ!」 「ん゙ンッ……だってだって智志くん、」  だってでもなんでもないっつの!  異常にくっついてくる王司の体に肘打ちをしてやれば呻き声が耳に届いた。腕枕をするように王司の左腕は俺の頭の下にある。  伸ばしっぱなしならそれでよかったんだが、肘を曲げて俺の頭を包むように置いてある手。  もう片方の腕は腹の上にさり気なく置いてあり、いつ下半身に手を伸ばしてくるのかとヒヤヒヤしている俺。足は絡めるだけ絡んできやがって、もう俺の右足は王司によって押さえられてるせいで動くのも困難だ。  左足だけ動かせてもそれはどういったタイミングで動かせばいいのかわからない。  今の俺は、王司のせいで、身動きが取れないという形にハマってしまったのだ。  わかっていたことだが、ここまでとは予想していなかった……。  トイレの時とかどうすんだよ……あまりトイレで起きるなんて事はないが、万が一あったらどうすればいいんだ……。その時の左足か? 「……寝転がりながらの蹴りは出来ねぇよなあ」 「智志君、いい匂いだ」 「んなのお前も一緒だろうが」  ちょっとした希望と奇跡で、すぐに寝るかと思っていたが、寝るわけがないよな……。  はやく寝たいと言ったこいつだがきっとこんな風に喋りたくて、はやくベッドに行きたかったのかもしれない。チャーハンは不純でも寝たい気持ちは純粋と見て、俺は王司をどこか見直す。 「智志君、明日もずっとこのままがいいな、ね。いい?」 「んー、王司の言う“このまま”は俺と違うからなぁ。一日中寝転がってるのもツラいと思うけど」 「でもこのままがいいなぁ……智志君、おれ頑張ったからいいでしょ?」 「いや、それとこれは関係ないっつーか……メシの時とかどうすんだよ」 「それは……しかたないね」 「だろ?じゃあ明日は8時起きだ」 「やっ、やだ!はや過ぎる!」  さらに締め付けてきた腕にガッとぶつかってきた王司の頭。  石頭なのか、俺がただたんに弱いだけなのか、とりあえずぶつかった頭がすっげぇ痛いんだけど。  

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