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この際、なんでも教えてください

  「中沢は王司に対して解決方法が欲しいんだよな?」  木下の言葉に頷く。  なんでもいい。もう漫画や小説で読んだファンタジーものの参考でもいい。とりあえず、くれ! 「解決方法は実に簡単だ」  ニコニコした表情で椅子から立ち上がる木下。  まさに今、俺に希望の言葉を告げようとしている。  そんな嬉しさからかドキドキして待つ俺に、どこかハラハラしたような表情を浮かべている平三。  けどゼリーを食べる手は止まっていないってどういうことだ……。というか、この暑さを考えて食べやすいように表面上を凍らせてよかった。 「それは、」 「「それは……?」」  俺と平三。  交互に指を差しながら目を合わす木下。  自信に満ち溢れた表情で、こう言った。 「ない――という解決」  それはそれは、今の木下なんて平三より良い顔してんじゃないかってぐらいの笑顔で言った答えだった。  いや、ない……って、なんだ……?  はっ!? 「なぁ、考えてみろよ。話を全部聞く限り、みんなの憧れバリタチ王子様はとんだ変態ドMだろ?今の俺から言わせれば王司が突っ込まれる立場に見えてしょうがない……が、それも全部マゾ癖のせいだと思っている。イラマチオされようが王司はてめぇのチンコを舐めれて幸せと感じてるし、抵抗しようと殴る蹴るなんてやってもあいつからしたらもう快感しかない。言葉も悪くしてみろ。わかってると思うが恍惚な顔で中沢 智志に惚れ直すぞ。だからこれは潔く、」 ――諦めて王司の彼氏になるしかないっ! 「いやっ!ねぇよお前!その方法は、ない!」  いっきに喋ったかと思いきや、これってどう考えても木下が好むような仕向けしか考えらんねぇよ!  こいつ……こいつマジでもう……!  もしくはあれか……そういった漫画や小説ではみんな木下が言ったような感じになってるのか? 「なぁ、解決が出来る出来ないにしろ、彼氏になるのはどうかと思うぞ?」 「松村はこれだから……流されちゃえばいずれは好きなんて感情が芽生えるんだから、はやいに越したことはないだろ」 「はやいってなんだ!それじゃまるで、智志と王司はいずれそうなるって言ってるようなもんじゃないか……」 「は?違うの?」  そこで二人の顔が俺に向けられる。  なんだか、なぁ……先生と助手が、なんて俺が勝手に決めただけだけど、余計にわからなくなってるような気がする。  いや、悩みが平行線のままだ。  王司のあしらい方がわからないと思ってる俺に、王司を受け入れようとしてる俺がいる。そこでこうまでしてあいつを拒絶しようとしているのは、 「そもそも智志は王司を好きになりそうなのか?」 「松村君なんかほっといて俺と、いざ攻め受けベンキョーしようか!中沢君!」  ……この二人が俺に聞いてきた事だ。  ゼリーを食い終わった平三とやっと手に持ち食べ始めようとしている木下に背中を向けて考える。  そもそも俺は王司を好きになりそうか?……この際だから言うが、まだわからないにしろ度々あいつを可愛いと思ったり、普通にカッコいいと思った事がある。  これが恋愛感情というものなのかは、不明だが。  しかし木下が言うそのベンキョーとやらには興味があるわけで……。 「やっぱ俺が突っ込まれんだよなぁ……」  頭を抱えて想像してみるものの、こんな学校にいるんだ。  身近の二人もいて、そりゃもう流れはわかっている。――痛いんだろうよ……。 「待て、智志がなんか、」 「今回は俺を怒らないでくれよ?中沢は自ら向かおうとしてるんだからな」 「いや……本人がいいなら、別に……」  頭を抱えて、たまに立ち上がってみて、ウロウロと木下の部屋を歩いて、また同じ場所に座り込んで、床と睨み合い……そしてまた立ち上がる。 「木下……なんでも教えてください……」  手で顔を覆いながらの縋り。  テンションのマックスが飛び抜けたのか聞いた事のない『よっしゃぁぁぁぁ!』という木下の声に『そんな無理矢理好きにならなくても……』という平三の声。  諦めと挑戦って結構、大事だと思うんだ。そこに開けてない扉があったら、開けたくなるだろ?  押すな、と言われたボタンは押したくなるだろう?  俺にとって平三の心配な気遣いも、木下の背中を押す力も、王司のなんともいえない――スイッチが入ったあの表情を見たら、逆に興味しか湧かなくなったんだよ。 「あ、でも約束の一週間は安眠したいんだけど」 「任せとけ、そん時の対処法も教える」 「おい!最初からそれを教えてやれよ!」  

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