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二日目の夜

   頭に叩き込まれたものは、王司をちゃんとストップさせるもの。うっかりそんな雰囲気になった時の対応策。それと知識。  もちろん本物は厳しいから漫画という柔らかいものを読んでみたけど、最後に言われたのは『現実ではこれを鵜呑みするのはよくないから忘れろ』と、読み損だった。  部屋に戻ればうるさく暴れるかと思った王司がいない。  いなくてもいいが、こういった場面にあまりなった事がないから首を傾げそうになりながらも自室のドアを開ければ溜め息を吐く。 ――ベッドで王司が枕を抱きながらスヤスヤと寝ているからだ。 「どんだけ寝るんだよ……」 〝とにかく上から目線で喋れ、そうすりゃ少しは言う事を聞くだろう〟 「智志君は酷い人間だ……」 「なんだ、突然」  結局、晩ご飯が出来るまで寝こけていた王司を起こした直後に言われた一言。  ムッとしているその顔に指を突けば、嫌じゃないのかそのまま話を続ける。 「今日はずっとって、昨日言っただろう?」 「あー、なぁ?それはそうだが、とりあえず飯」  確かにこの件は俺が悪いな、なんて思いながら作った生姜焼きをやれば迷うことなく食べまくっている王司。  なんとなく見る初めての不機嫌な顔に苦笑いをしつつ、これは今夜もくっついてきそうだなぁ……と予想――。  食べ終わった食器をキッチンのシンクに置いて一人でさっさと風呂に入ったかと思えば、出たあと速攻で俺の部屋に入る辺り、体が素直過ぎてさすがに笑った。  木下に教わったあと平三から『最初から上手くはいかないだろうな』と言われて目を瞑っていた俺。  でもまぁ、なにに対しても初めてな俺だから。勘違いで教わったものはないわけだし、全部が正しいとも思ってない。  要は、王司に応えられればいいと思ってるだけだから。  どんな感情にしても。 「おい王司」 「んわぁ……!」  どす、と加減なく王司の背中に乗る。一瞬、苦しかったのか変な声を出す王司。 「もうちょい端に寄れよ。それか床」 「床は、やだ」  そう言って俺が背中に座ってるにもかかわらず動こうとする王司に腰を上げた。  でも表情は浮かないものになっている。  だが、もうそこまで気にする必要はないと思い昨日と同じ時間にベッドに入って電気を消すとヌルッと腕を首に通してきた王司。 ――予想通りになって笑いそうだ。 「王司、昨日みたいに舐めてきたら今度こそ知らねぇぞ」 「だって、智志君が今日……」  どんだけ今日を楽しみにしていたんだ、こいつ。頑張りの褒美をこれに託すのってどうよ……。と、思ってみたが、王司 雅也だ。  こいつが、これがいい、と言ったらそれがいいんだろう。  じゃあ、そうしてやろう。 「明日はずっとこのままでいようとしてんのに、俺を寝かせない気か?」 「え」  食いついた王司。  目を瞑ってる俺からしたらなにも見えないが視線はガッツリ感じてるせいで王司がどんな顔をしているのかわかる。  第一に言えるのは、もう不機嫌な顔を晒してないという事だ。  平三の心配は無用で、木下の言葉通りに王司が食らいつくから、若干の優越感を覚える俺。 「ねっ、寝るから!」 「おう、寝とけ寝とけ」  とりあえず今日の安眠確保、と。  

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