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五日目の夜

     *   *   *  余談だが、今日学校で平三から俺の好きなゲームシリーズの最新版を貸してもらった。 〝あっちが我慢出来ずに本気で襲ってきたら、しかたがない。護身術を教えてやろう〟  髭おじさんや配管工の人とバカにし続けてたあの平三がわざわざ買って俺に貸してくれたんだ。なぜ買ったのか理由を言わせれば、本当にたまたまだったらしい。  よく言うな……あいつこのゲーム機持ってねぇくせに。んまぁ俺は俺で楽しむために貸してもらったけどな。平三がなんのために買おうがどうこうしようが俺には関係ない。  放課後、一人でさっさと帰ってきたせいか珍しくも王司はいなかった。  各部屋も見たがいなくて、全く一人でこの部屋にいることが久々になっていた。が、俺は今、楽しみのゲームソフトがある。  宿題もないことだし部屋着になって、ゲームをぶっ通しでやろう。メシは簡単なものでいいや、と頭の隅で考えながらスタートを押して数時間。  スマホで時間を確認したら19時を回っていた。あれ……王司の奴、帰ってきてなくね?  首を傾げたもののゲームというのは、いや――このシリーズの中毒性がやばい。王司の帰りは後回しで瞬殺で風呂に入ってまたやろうと考えてるから恐ろしい。  眠気もきているが、ここはスルーしとこう。 「うおっ、お前いつの間に帰ってきてたんだ?」  ガシガシと適当に頭をタオルで拭きながらリビングに戻ると王司がソファーに横になっていた。どうやら俺が風呂に入ってる間に帰ってきたらしい。 「今さっき。夏休み前だから生徒会の仕事をちょっとやってたらこんな時間になっちゃったんだよ」  あぁ、そういやお前、副会長だったな。  もう俺には生徒会といったら会長様で、あと印象の強かった飯塚先輩しか頭に浮かばねぇなぁ。 「そりゃおつかれ。先に風呂入って来い。メシも……キリのいいところで作る」  コントローラーを持ちながら再開すれば、体を起こしてジッと俺を見ている王司。  俺はガッツリテレビ画面を見てんだけど視界は王司まで入ってくるからどうしてもわかっちゃうんだよ。 「なんだよ、王司」 「え、あ、その……」  やりながら話しかければ、俺が気付いていたと思っていなかったんだろう。  吃りながらなかなか話さない。ないなら、それでいいけど。  なんて思った瞬間“さすが王司”と思うのは抜けていなかったようで――べろっとうなじを舐められた。 「……っ、なんだっつーの!」  ゲームを中断して振り返れば、最近になってよく見るスイッチの入った王司が俺を見ていた。  急過ぎてなにも出来ねぇよ……。 「……智志くんまだ濡れてるよ」 「だからって舐める意味がっ、おい」 「さとしくん……」  ソファーに座っている王司。  その隣で床に座っている俺との差は、こいつからしたらやりやすかったんだろう。肩に手を置いて王司の方へ引き寄せられた。  なんか、これ、久々に来た危機感じゃないか?  この一週間の間はせめて、と思っている俺からしたらこのまま流されたら意味がない。  その意味とはなんだ、と聞かれたら答えられない、そんな意味だ。無意味なそれを守るために思い出すのは木下から教わった、護身術というもの。  あいつの家、護身術稽古の経営者で木下道場をやっていると聞いた。そこの息子でついでにやらされていた、と。  さすがに小学校を終えるころにはやめてたらしいが、その男からの直伝だ。結構信じれるだろ。 「はッ、王司、おまえほんと……」  右手を一回握り、そのあと中指を突き出すように第二関節まで曲げて、王司の脇腹にゴツッとねじり突っ込むだけ。  これだけで相手はかなりダメージを受けるらしい。言われた時は疑いまくったが、実際にやってみると――。 「い゙っ、た……ちょっと待って智志くん、それなに……」 「……護身術らしい。お前が悪いんだからな。一緒に寝ないぞ?」 「護身術って……、」  かなり効いてた。  ちなみにこのおかげで安眠確定だ。  

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