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カウントダウンでもしますか?

  「――で、」  終業式の日。  学生にとって嬉しいイベントのひとつが、夏休みだろう。7月の後半辺りから休めて、8月はまるまる休める。約一ヶ月半ほどの休日に胸を躍らせない学生なんているだろうか。  全寮制だと、とくにそうだろうよ。 「で?あ、智志それくれよ」 「寮に帰れば新しいのやるって」 「腹減ったー。今がいい」 「おい、お前等……」  我が儘を言う平三に話を戻そうとする木下。  バカが付くんじゃないかと思うほどの生徒数が体育館に集まって校長の長々しい話を聞き流せばやっと式が終わり、みんなのテンションが有頂天に達していた。  体育館に入る時の態度と出て行く時の態度を比較してほしいぐらい変わってるから笑えるよ。俺もその一人なわけだが。  校長の話が終わって教室に戻れば次は淡々と、だけど注意してほしい部分はちゃんと伝える担任の言葉を最後に俺達の夏休みがスタートを告げる。  そんな中、どんどん帰って行くクラスメイトを見ながらまだ立とうとしない俺、平三、木下。  やっぱり作ってきたお菓子の目の付け所に鋭い平三が鞄からちょろりと出ている小さなタッパー容器へ指差しながら言ってきたところだ。 「木下も食えよ、腹減ってるからキレやすいんだって。美味いぞ、智志のは」 「一番キレてる回数が多い奴に言われたくねぇよ。で、中沢。その後どうなんだよ、あいつ」  あいつ、とは。  教室だからか、木下なりの気の遣い方で名前を伏せた“あいつ”とは、たぶん王司だ。というか平三、木下以外深くかかわる人といえば王司しかあり得ないからすぐにわかる。 「別に変わりねぇよ。相変わらず変態だし殴られてももっともっととか言うし、いまだに俺の部屋で自慰なんてしてるし。ほんとマジでなにも変わってねー」  今回、作ってきたのはミルフィーユ。  季節とか関係なしで作る俺は真夏でもチョコとか溶けそうなものも結構やるからな。  そんな作ってきたミルフィーユを食いながら眉間に少しだけシワを寄せる平三は言った。 「歪みないあいつに拍手を送りたいね」 「俺はもう中沢達のセックスが楽しみで楽しみで」 「んー……でも夏休みだから。お前が期待しても射精と同じく儚いだけだぞ」 「儚い?なぜ?夏は人を変えるぜ?」  俺の華麗な下ネタはスルーか、そうか……。  急にやってきた羞恥心に慣れないことはやらない方が一番いいな、と思いながら俺は話を続ける。 「だってみんな実家とかに帰るだろ?あいつも帰って家族に会うわけで、俺は別に帰らないから接触する機会がよりいっそ減るっつーか……」  食べ終わるころにもう一個、平三に苺ジャムが挟んであるミルフィーユを渡してオーラで『これも食え』と伝えると、別のことでサラッと言った俺になにかおかしな点でもあったんだろう。  木下が首を傾げていたから。 「なんだ、中沢も帰らないのか?両親もさぞかし寂しいだろうよ」 「あぁ、」  俺の事情は平三にしか言ってなかったもんな。  

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