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カウントダウンでもしますか?

   ドアを開けて見えた靴に王司はもう帰ってるんだとわかり、いつものようにただいまと言えば自室から出て来た王司。 「おかえり、智志君」 「おう」  くそ、こいつが笑うたびに眩し過ぎるその爽やかな笑顔はなんとかならねぇのか。夏ビジョンで俺の目に映る王司に逸らしたくなる。が、こいつはどういうわけか勘違いをしているみたいで、冷たくされてると思ってるらしい。  それで恍惚な表情を浮かべるのやめてくんねぇかな……。毎日が毎日、ある意味、最強過ぎる7組でイイ男達に囲まれてるあの王司 雅也君を出してほしいわ。  普通に、ただのカッコいい爽やかな王子様だから。  こんなすぐ息を荒くするような、気持ち悪い王子様はもう王子様じゃないからな。 「智志君。智志君はいつ頃、帰省するんだい?」 「俺?んー……」  悩む必要はもちろんない。さっき教室で平三と木下の三人で外に出ず過ごそうとか言ってたわけだし。  そもそも帰る家なんて、ないも同然。俺に帰省という言葉はないんだ。  けど、こいつに言ったら、どうなるよ。 「王司はいつ帰るんだよ」 「あぁ……本当は始まったあたりからって言われてるんだけど、出来る事なら時期的に智志君と一緒がいいなって」 「あー、そう……」  たぶん、こいつに言ったら帰らなくなるだろう、と予想している。  どうしてだ、と聞かれてもちゃんと答える気はないが、そう予想してる俺。ただ言えるとしたら少しでも多く俺と一緒にいたいと思ってくれてる気持ちだろ。  こいつは、そんな奴だ。 「親に言われてるなら今日にでも帰っとけよ」 「そ、それはやだ。いきなり智志君と離れるのは、やだ……」  ほらな。 「いや俺を優先にされても……」 「決まってるなら教えてよ。で、一緒に駅まで――「行かねぇよ。今日明日までに帰れ」  そう言って鞄を自室に置こうとドアを開けた。  もう、何度、漂ってきたことか。精液のニオイがすんなぁ……。あー、俺もう泣きそー……。 「王司……」 「なに?さとしくん」  なに、じゃねぇよ。  王司に背中を向けてて、あいつの表情なんてわからないが、声でわかってしまった気分。甘ったらしい、耳にこびりつくような、わかりやすい声。  振り返ったら絶対に俺から怒られるのを期待してるような表情が見れるだろ……。  なんとなく、本人は隠していたつもりの息の荒さの原因がわかった。  終業式が終わったのは今からちょうど二時間前、俺達が担任の注意などの話を聞いてたのはだいたい30分ぐらいで、あとは平三と木下の三人で話し込んでたわけだが……7組はいつ終わった?  その間にこいつは俺の部屋でオナっていたことになるからさ。  ベッドが荒れてない様子を見て、これは素早く直したか、違うところでヤったか……床?  いや、それらしき液がねぇもんなぁ……拭かれてたら気付かないで終わるが。  でもま、妙に綺麗に整っている掛け布団をめくるか。 「あ、智志くんっ」 ――当たりか、ボケ。  バッ、とめくればシーツの色が違っていた。今朝までは白だったのに今はクリーム色になっている。  精液を出したあとにシーツを洗って別のシーツに変えたんだろう。……平三の言う通り、歪みないこいつに拍手を送りてぇよ。  はぁ、と伝わるように大きな溜め息を吐く俺は俺なりの最高な笑顔を作り振り返った。 「王司!」 「さと、うゎッ……!?」  いっきに歩み寄って胸ぐらを掴んだあと、さらに押し歩いてソファーに倒す。  下手すりゃ王司の頭はテーブルの角に当たるところだったが、成功したから良しとしよう。 「智志くん、違う、あれはッ」 「なにが違うんだよ。俺は言っただろ?部屋でオナるなって」 「だって――「とかじゃねぇよ!」  大声で王司の声を遮り、続けて『少し待ってろ』と付け足して、その場から離れた。  そして俺は、毎日掃除でもしてるのか汚さを感じない王司の部屋に入っていろんなところを開ける。  二度目だけど王司の部屋だからか、どこになにがある、ってのがだいたいわかる俺が怖いぜ。 「待たせたな、王司くん」 「……」  俺の言う事をちゃんと聞いてたらしい王司は動かず、ソファーに寝転んだまま。そこから首を傾げる王司に俺は持っていた多少大きな鞄を投げ渡す。  慌てて受け取る体勢に入るもののキャッチし損ねたせいで落ちる鞄。 「なにしてんだよ、拾え」 「さ、智志くん、これなに?俺のだけど……」  戸惑う王司に俺はもう笑顔など作っていなくて、躊躇いなく『家に、帰れ』と告ぐ。 「あっ、これ、服……」 「何度も言わせるな。親から帰って来いと言われてんだから帰れ。お前がいるからいつまでも部屋は精液まみれのニオイになるし、下着は今でもなくなるし、本当に邪魔だ」 「……」 「というか……いなくなるなら、ずっといないままでいろ」 「……――っ」  自分の荷物を見たまま泣きそうになる王司。  安心しろ、あれは悲しくて泣きそうなものではない、興奮してるから潤んでるだけだ。  どんな事を言おうがドMなら通じないらしい――木下談。  もうそこは諦めた方がいいらしい――平三談。  だから容赦なく吐ける毒だが、腹が立つほどこいつは快感に浸る。 『いなくなれ』  こういった言葉も浴びた事がないせいか、こいつは非常に興奮している。 「さとしくん、さとしくん、ごめん……ごめんなさい、俺つぎからは……っ」 「聞こえなかったか?王司」  それでも俺の気持ちは嘘偽りなく、本当にいなくなってほしい、ただそれだけだ。  つん、と喉仏を指で刺すように突く。 「――帰ってくるその日まで、お前が変わってくれると期待しようか」 「ぁ、」  口を開こうとした王司に腹を殴って廊下に出しといた。  長期間休みの初っ端からこれは、どうかと思うぞ。  

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