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相手には、する
王司を追い出した後、いっきに疲れが出てきてソファーに座り込む。
どうしてああも聞きわけが出来ない奴なんだ。俺ってばもしかして犬とか動物の躾が出来ないタイプなんじゃないか?
猫と犬、どちらが好きかの二択を言われれば犬と答えるが、これは将来的に危うい。飼うなら柴犬かゴールデンレトリバーを希望するが躾が出来なくて言う事を聞かないとか……。
制服のポケットに入っていたスマホを取り出して検索ワードに[ 犬 躾 やり方 ]と入れてみる。……検索ヒット数が多くて見る気もしなかった。
下へ下へ行くたびに検索した文字が引っ掛かっている太文字がある。それを頼りに少しだけ出ている文を読んでると、そこにアメとムチの使い分けとあった。
しかもほとんどがアメとムチと書いてあって、だいたい褒美がないと言うこと聞かないのか?と首を傾げる俺。
褒美ほうび褒美……なんて思っているとあるサイトで〝ご褒美で釣ると、ご褒美欲しさにその時だけ言うことを聞きます〟とあった。
つまりはそれ含めて、そういった躾ではなくちゃんとした躾がありますよ、って事だ。
まぁ、見ないけどな。
だいたい王司は犬ではないし、そういった躾とやらが通用するなんて思えない。じゃあなんで検索したんだって話だが……いつかは犬を飼ってみてぇなー、って。
そこで、触っていたスマホの画面が090から始まる数字に切り替わった。
電話だ……これは誰の番号だ?
登録をしていなかった番号はそのまま表示されて、まるでそいつの名前代わり。
携帯の長い電話番号なんて覚える気もさらさらない俺はわからないままその電話に出ることにしてみた。
「もしもし?」
「よう、中沢」
あ、聞いた事ある声だ。
「……会長様?」
「あぁ、ちょっと聞きたい事があってな」
合っていた声と人物に『なんで知ってんだ?』と聞く前に流されて、なんだよ、と答えてしまった。平三あたりか?
「雅也に無理矢理帰れって言ったな?」
「あぁ、言ったな。……親もはやく帰って来い的な事言ってたみたいだし」
変わらぬトーンで聞いてきた会長様だが、なにを思っているんだろうな?
そんな事するな、とか。俺ってば怒られる?
いやぁ、俺は正しい事をしたつもりなんだけどな……ほとんどは俺のイラつきで追い出したようなもんだけど。
「――そりゃそうかもな。あいつの両親は息子が可愛くてしょうがないと思ってるから」
そんな情報いらないぜ、会長様……。
でも親にまで可愛がられてるのか。いい事かもしれないが、なおさら不思議に思う――なぜ王司 雅也はマゾ体質になったのか。
どうでもいいようで意外とどうでもよくない疑問だ。
「で、なんなんだよ」
「あ、あぁ……俺はもしかしたら中沢に悪い事をしたかもしれない、ということだ」
「……どういうことだ?」
電話越しで伝わってくるおかしな空気。どこか焦っているようにも聞こえる会長様の声。
俺に悪い事を、会長様がした?
なんだ……?
思い当たるものがない。だから俺も誰もいない部屋で一人、首を傾げて会長様の返事を待っていた。
なのに会長様からの返事は『それだけだ』と素っ気なく返して電話が切れてしまった。
突然電話が来て、突然電話を切られる。
本当によくわからないな、と思いながら俺は掛けもしないであろう会長様の電話番号を登録して、暇になった時間でゲームを触り始めた。
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