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本能

  「さとしくん……ん、痛かった?」 「……いや、そーでも……」  目元をはじめに、額、コメカミ、頬、鼻先、顎、と顔中にゆっくりキスをされながら聞いてきたのは痛かったかどうか。  王司の短い髪の毛がたまにあたってくすぐりを感じるものの素直に答えた俺は、やはりこいつの期待通り最後までヤった方がいいのだろうか……。  別に、嫌とかではない。というか、嫌だったらここまでさせないし平三を挟んで会長様に頼み込んで同室者を変えさせてるから。  さすがの俺でも今までの行為は耐えられないだろうよ……。  ただ、ここまで悩むのは、考え込むのは一つ。 ――だって、激痛とか聞いたしなぁ……。  きっと痛ささえなければもっとはやくにヤっていたかもしれないし、今みたいに他の悩みで引きずっていたかもしれない。が、俺としては痛いか痛くないか、そこだ。 「……王司さぁ、」 「っ、なぁに……?」  若干、王司の体がビクついたような気がした。なにも触れてない俺だから、もしかしたら怒られると思ってんのか?  違うんだけどな……普通に、なんでお前のチンコはでけぇの?って聞こうとしたんだけど。  まぁ無理もないか。ここまでしちゃって、しかも最初は挿れるのなしとか言って流されたのに、結果はこれだ。  バカかと。――俺が? 「さ、としくん……?」 「……」 「……っ」  王司の名前を呼んどいてなにも言わなくなった俺に不安いっぱいな表情を浮かべながら顔を窺ってきたが、それでもなにも言わない俺。  よくわからないが……王司の顔を見ていただけなのに、こいつはどうして顔を赤くするんだ……。この状況だからか?  少なくとも王司なら男にしろ女にしろ俺より経験があるんだから慣れっ子だろ?  赤面する意味はどこにあるんだ。  疑問に思うことがポンポン出ながらも、それでも気持ち的に表れるものがある。 「……かわいいなぁ、お前」  もう、なんつーの――盲目的?  王司の気持ちが、どーんといっきに来てるのがわかるせいか俺もそれに応えようとしていると、そう見えてくるというか……あれ、俺はなにを言ってんだ?  とりあえず、王司の耳でも抓ろうか。 「さとしくぅん……ッ、はぁ、好き……大好きぃ……!」 「うっわ、なに泣きそうになってんだよ……大好きとか、そこまで言わなくても……」 「うぅ……っ」  泣く意味、とは……。だが、これで俺も決めてしまったのかもしれない。  いつの間にかこの泣き面に可愛いと思う日が来るとは思わなかったが、その顔に免じて〝挿入しても、いい〟と思うこの感情は果たして正解なのか否か。  ん? これに対して答えあるか?  ま、いいか。 「おうじ、」  耳を抓っていた手を離し、首に回していた腕をおろして王司の肩へ置く。  一度ぐらい、はっちゃけてみよう、と。  決心して、ここは男を見せようと自分に言い聞かせて、次はなにを言われるのかとビクビクと不安いっぱいな目で、顔で、見てくる王司に、口を開く。 「激痛にしなきゃ、いいぞ」 「……え」  予期せぬ答えだったんだろう。  王司からしたら期待していた言葉のはずなのになんだか鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてジッと見ている。  いや、すげぇ喜ばれてもそれはそれで萎えて『やっぱウソ』って言うかもしれねぇけど……そんな、なんだか説明しにくい空気を作られても困るというか。  いいんだけど、いいんだけどな? 「智志くん?さとし、くん?」 「なんだよ……てめぇのチンコを俺の穴に入れてもいいって言ってんの」  やる事はわかっていても言葉をまだ理解してないのか、それともその逆なのかわからないが王司はしつこいぐらい俺の名前を呼びやがる。  それにイラついてきてつい、ドンッと王司の腰辺りに踵落としをかましてしまったが、間違いでもなんでもないだろう。  イラついたのは事実だしな。 「い、いいの……?」 「ここまで来て逃げ腰か?それならそれでもいいけど。あともう涙を流すな、鬱陶しい」  そう言うと王司は勢いよく首を頷かせた。 「……ッ、うん……!」  それはもう首がぶっ飛ぶんじゃないかと思うほど。  笑える王司に声を出してみるが実際はどうだか……もしかしたら王司を裏切るかもしれない。なるべくそうはさせたくないが、やっぱり俺は自分が一番可愛いと思っているからしかたがない事だ。  自分優先になる。 「王司、聞け」 「……」  きっと内心、嬉しがってる王司へ頬に伝った涙痕を拭いながら、 「俺が痛かったら止めるけど――」  裏切る、かもしれない、ご忠告。  主導権は握っときたいしな。  ただし、9割は、安心してもいいと思え。  

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