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噂のピロートーク

  ――王司はよく動くなぁ……。  ぼーっとする頭で思ったことは、これだ。 「……」  イったあとにぐったりと脱力して倒れてきた王司を受け止めることも出来ないまま、俺は荒く息を吐いていた。それは王司も同じみたいで耳元にあたる。  もう今の俺にくすぐったいだとか、嫌なものだとか良いものだとか、そういうのじゃなくて、まるで風が吹いたかのような扱いで感じなくなっていた。  あーあ……俺の精子の方が多いか?  ゴムを外せば王司も負けない気がするが。飛び散り放題でもあるから俺の方が多いのかもしれないな。  なんて少しずつ落ち着く息に周りを見ているとぐったりと俺の体に倒れていた王司は素早く立ち上がり、風呂場へ行ってしまった。  声をかけようにもなかなかうまく出なくて、俺まで立ち上がろうなんて考えは初っ端からない。  いやぁ……ケツに違和感とか、まだあるからな。こんなにも違和感だらけだと立つに立てねぇよ……。  俺も風呂に入りたかったなー、なんて勝手に王司はシャワーを浴びに行ったと考えているとすぐに風呂場から出てきた王司。  はやくないか?  というか音すらしてないぞ?  首を傾げそうになりながら王司を見ればバスタオルを二枚、手に持っていた。  それからの王司は素晴らしい動きに俺の体もあいつの体もあっという間に綺麗になって嫌なベトベトもなくなっていた。  さすがにソファーの処理まではいかなかったらしく、そのまま王司は自室に行ってはすぐに戻ってきて、掛け布団を持ってきたらしく、それを俺に掛けてくれる――のかと思ったんだ。  なのに、 「えぇ……お前もかよ」 「……」  俺のために持ってきてくれたのかと思いきや、王司は俺に覆い被さったあと、その上に掛け布団を掛けて静かになったのだ。  抱き締めてくる腕の力が多少強く、なにも言わない王司が珍しいと思うなか、俺はやっと時間を確認しようとテーブル上にあるスマホを手に取る。  ロック画面に表示されたのは、確認したかった時間と、木下と平三からのメールと平三からの着信だった。  つーか、時間が21時24分って……!  ちょっと待て、マジで?  王司が帰ってきたのって何時だったんだ!?  予想をはるかに超える時間に動揺しながらも次は平三と木下への受信メールを確認する。  平三からは数時間前で『会長に智志の番号教えちゃった。なにか言われた?』の内容。  なにか言われた、というより、謝られたというか……その後の結果が今なんだけど。  次に木下のメールを確認すれば、すげぇ短文だった。 『本番?』  受信された時間は今よりも20分ほど前。 「え゙っ……!?」  あまりの衝撃にケツが痛いくせに、王司に覆い被されてるのに、それを退いて起き上ってしまうほど。 「あっ、智志くん、離れないでよ……」  ちょっと待ってくれ……今日の俺ってば“タイム”を使い過ぎてあれだが、見逃してほしい。  王司が絡んでくるも相手に出来ないほどスマホの画面と見つめ合う。なんでこいつが知ってんの?  平三も知ってるとか?  この着信の時間は……二時間前……どっちだ。  この二時間前とは俺達がヤってることを知って電話をしてきた、着信なのか。それとも単に会長様関連での、着信なのか。  そもそも俺達はどのぐらいにわたってセックスをしていたのか……。 「さとしくん、智志くん」 「なんだよ、王司」 「んー、智志くん」  狭いソファーにもかかわらず起き上った俺の後ろから抱き締めてくる王司。  すり寄るように頭を押しつけてきて本当になんなんだ?と思った。けど、その行動は可愛らしく、なんとなく甘えてるんだなと感じ取る。……とりあえず、平三と木下は後回しだ。  こういった時間を大切にしていった方がいい、と深夜のバラエティー番組でやってたような気がするから。  こうやって抱き着くのも甘い声を出してくるのも、王司なりのピロートークというものなんだろう。あー、抱き着いてくるのはいつもとかわらないか。  ゴトッ、と音を立ててテーブルにスマホを置いておく。 「王司、一旦離れろ」 「え、やだけど……」 「あー、違ぇよ。もう一回寝転がりたいからって事だ。そのあとは自由にどーぞ」  そう答えると王司の表情が嬉しそうに切り替わったのがわかった。  力のなくなった腕を外してその流れで下を穿き直し、寝転がる。するとすぐに王司も乗っかってきて、持ってきた掛け布団をもう一度掛けていた。  どこかが痛いとか、重いとか。考えずに王司のやりたいようにやればいい。  ここにきて俺は主導権を放棄。  放棄したところでその主導権を王司が持っていくとは考えにくいが、俺も今は必要ないだろう?  しかしこの時間は普通に喋ってればいいんだろうか。遭遇したことのない展開に所詮、テレビの情報だ。その通りにやればいいってもんでもないだろ。 「そういや王司、」 「んー?なぁに?」  やたら伸ばしてくる言葉。  まぁ今は聞き心地がいいから別にいいんだけど。 「お前さ、ドMのくせになんでタチとかやってんだよ」  王司が受け役をやった方が似合うと思うんだけどな。痛いのが好きならば最初の時なんて、こいつからしたら最高なんじゃねぇの……?  暴力的なものでも好んでいるわけで、精神的な苦痛にも耐えられるそのメンタルをいかせばいいのに、まさかの挿入する側だろ?  え、ピロートークじゃないトークになってる?  いや知らねぇよ。  

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