77 / 118
噂のピロートーク
「今まで抱いてきた奴等にもこんな感じで抱いてきたとか?」
「へっ、い、いや……そうじゃ、ないけど……」
だんだんと小声になっていく王司。
そりゃそうか。こんな抱き方していたらバリタチなんて付けて呼ばないよな。バリタチなのに王子様なんて呼ばれて、いったい今までどんな風に抱いてきたんだ。
モテる理由のひとつでもある――王子様はセックスが上手い――なんて上がってるぐらいだ。こんな本性を暴かなくても相手を満足に出来るぐらいのやり方を知ってるわけだろ?
「というか、どこでドM意識を持ったんだ……変態は別にそこらにいたとして、マゾヒストに目覚めたのはいつからなんだ?」
「それは智志君だよ」
……あ、背中を蹴ったあの時か。
「じゃあその前まではただの変態だったんだな。……俺が蹴りさえしなければよかったのか」
白目になりそうなほど自分の行いの悪さに溜め息が出る。
ドMな王子様を作ったのが、この俺とか……神様はいったいなにしちゃってんだろうな……。
「へ、変態っていうか、その……満足は、正直……100%ではなかったな。でも本当の自分がわかってから、すっごい気持ち良かった」
「え、じゃあこんな抱き方もしてたのか」
「違う!こういうのは智志君が初めて!で、すっごい気持ち良かった!」
誤解をとくためか大声で訂正してきた王司に耳を塞ぎながら適当に返事をする。
「あー、そうかいそうかい」
「智志君、本当だよ?」
泣きそうな顔に、笑いそうになりながら話を聞き続ける。
「俺自身の性癖を知って気持ち良かったっていうのは、いつも智志君の事を見てて松村君を叩いてたり、木下君にもやってたりしてて羨ましかったっていうか……。いい音を出して叩く智志君がカッコよかったんだ。松村君や木下君を俺に置き換えて、ちょっとヤったら……すぐイっちゃって……」
『オナニーじゃなかったら、危なかった』
そう付け足して話す王司の顔が赤い。
目も合わせられないほどなのかキョロキョロしてて、回されていた腕が微かに震えている。
緊張からきてる震えなのか、それとも興奮して震えてるのかわからないが、気付かなかった事にしよう。
さすがに今日はもう無理だ。相手に出来るわけがない。
「へー」
「……なんでタチかって話だけど、誘われて、それで立場が流れたっていうか」
おぉ、今度は自分からちゃんと答えてきやがった。
俺から振っといた話でもあるが正直どうでもいいラインまできている。
理由は二つ。
「相手に誘われて、ちょっと否定したら痛くない方だからって言われて、ヤってみたんだけど……出回ってる噂ほど俺は上手くない」
「や、てめぇは上手いよ。俺は初めてだから知らねぇけど、上手いと思うぞ」
ひとつは、単純に疲れた。
セックス自体が初めてで、しかも受け入れる方だ。さらにその相手はマニアックーーらしいから、余計に。
「じゃああれだなぁ、いつかはお前も受け役をっ「それはっ、いやだ……!」
もうひとつは、疲れてるから眠い。
さっきから眠過ぎて喋り相手を出来るかといったら首を横に振ってしまう勢いだ。
それぐらい眠い。
「あ?」
だけど王司が止まらないせいでなかなか察してくれない。
「ご、ごめんっ……けど、自分のお尻に、なにかが入ってくるのは、違和感しか、ないから……」
「……」
ぐだぐだと面倒になるのも嫌だから俺は必死で意識を繋ぎ止めてたんだが……今の発言で、眠気もぶっ飛んでしまった。
いや、だって、こいつ今なんつった?
お尻に、なにかが入ってくるのは、違和感しか、ないから……?
「あぁそうだよ!違和感しかねぇよ!」
聞き捨てならない言葉にもう一度起き上がって、さらにソファーから立っては王司に怒鳴る。
気持ち良くなるのも随分と時間がかかったし、もうマジで圧迫感とか酷くて耐えられなかったし、裂ける恐怖もあって、違和感どころかそういうの全部越して“痛み”しかなかったんだけどな!
「ひっ……!さ、智志くん、ごめっ「はっ!お前にピロートークとか無理だな!」
怯える王司をバカにするかのように空笑いをして風呂場へ向かう。
前までは、有名人であるあの王司 雅也が平々凡々な俺相手に怯えてやがる、とこっちが怯えたもんだ。だけど今は違う。……あっちが怯えてて当然だな!
風呂場のドアをバタンッと閉めたと同時に座り込む。……ケツ痛ぇのになに歩いちゃってんだ俺っ!
でも風呂にも入りたいし、シャワーぐらいなら……。
「さ、としくん?洗おうか?無理しないで――「黙れ。お前はとっとと全裸になって外で正座してろ、ドMっ!」
そう吐き終わったあと、ドア越しで俺の名前を口にした甘さにイラッとしながら服を脱ぎ始めた俺。
風呂終わったらメシも食おう……。
ともだちにシェアしよう!