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変わったのも変わるのも

  「俺はその頃から朝晩と漫画や小説とかゲームだった」 「俺はすでに浮いたガキだったけど」 「俺は転々としていたから、友達とかいなかったな」  夏休みが始まってもう一週間が経とうとしている。  つまり、俺と王司がセックスして最後にぶち切れてから一週間。  今日はすることもないからって無駄に寮の食堂に居座っていた。もうほとんどが実家に帰ったり、遊びに行ったりで生徒がいないためすごい静かだ。  たまに食堂前を通る人がいても俺達からしたら全然知らない人だし、ご飯を食べるには微妙な時間のせいでやってくる人ももちろんいない。  だからここを選んだっていうのもあるけどさ。 「……お前等の幼少時代はくそ可愛くないんだろうな」 「おい、それは木下も同じだろ」 「絶対に捻くれてただろ」  平三が苦笑しながら言えば木下は漫画を読みつつ『よくわかったな』と返す。  本格的に暑くなってきた時期は夏日なんて言葉は随分前に天気予報の人が言っていて、昨日の夜には猛暑日だとか言ってたっけ。  それなのにテレビに映る小学生達は元気に公園で遊んでる映像を流してて、思い出す昔の俺。  平三達に“小さい頃から夏が嫌いでしょうがなかった。夏休みは朝から近所の子達が遊ぼう遊ぼうって外で言い合っててうるさかった記憶がある”と話題で振ってみた。……ら、わかっていたことだが、ピンとこない三人の小学生時代。  朝の7時から『はやく来いよー!』『今行くー!待ってー!』なんて叫び合う子供を見てたら、なんか、な……。 「だぁ……しかし暑いな。暑くて漫画も小説も読めやしねぇ……」 「エアコンついてんのにな……窓側だからか?」  手であおぐ平三に俺も便乗して立ち上がる。  暑いのは本当だし。 「絶対そうだって。よし、移動しよう。木下の部屋に」 「いや、だからっ――!」  反抗しようとした木下に、俺はスマホを取り出してあるものを見せる。それは木下から来た受信メールのある一通。  めちゃくちゃ短文で、記号を入れても三文字しか打ってない、メール。 『本番?』  これだ。 「これなんだ?どんな内容だよ」  スマホを覗いたら意味がわからなかったようで首を傾げる平三。それに対して見せられた木下はというと、 「よしよしよーし!行こうか、俺の部屋!」  せっせと漫画や小説を片付けては太陽にも負けないほどの爽やかな、だけど熱さも増した笑顔で俺と平三の肩を叩いてきた。  手のひら返したかのような扱いに溜め息が出るものの、俺は俺で“こいつ等は先生と助手”だから、という理由で見せただけだ……。  そうだよ、言ってないんだよ。俺と王司がセックスしましたー、なんて。  薄々気が付いてんだろうな、とは思っている。  それでも言わなかったのは、腰とケツが痛くて立ちたくなかったのと、どう話を切り出そうと悩んでいたからだ。  その間の王司は、最後に俺を怒らせて罪悪感をたっぷりに感じ取ったのか甲斐甲斐しくも俺の世話ばかり焼いていた。  二日、三日と経てばもう前みたいに歩けるし動けるし、痛みが全くなくなっていたから『そんなに世話しなくてもいい』と王司に伝えたが、あいつなりの反省の仕方でもあったんだろう。  昨日はしつこしぎて殴ったけど、殴られた久々の痛みからか王司のスイッチが入ってしまい、そのままラウンド1(ワン)開始。  挿れさせないつもりだったが俺も若いみたいで、ほぼ初めてのくせに泣きそうになる王司の顔を見ては疼いたあそこをクソビッチと自分で罵倒したからな。  まぁ、そこまではこいつ等に話さねぇけど。 「やっぱなぁぁぁぁ!あん時たまたま中沢の部屋を通って正解だったわ!」 「え、ほぼ引きこもり木下が廊下にいたのか?」 「ちょ、ちょっと待って智志っ、え!?」  木下の部屋につけばみんなの定位置、俺は床で平三がソファー、木下が勉強机の椅子に座る瞬間にテンションがはじけ飛んでいた。  あぁ、平三にもサラッと言ったぜ。 『王司とセックスをしましたクソ痛かったですが平三があんなにも言うほどでもなかった気がします』って。  なぜか敬語になってしまったが大方あっている説明だろうと自己完結。  木下については全てを悟ってるかのように腕を組んで何度も頷いて頷いて、さらに頷いていた。 「奥さん、今晩は赤飯だぞ?」 「誰が奥さんだ!……まじかよ智志ぃ……」 「お、おう……」  ソファーになだれ込むように倒れた平三は顔まで手で隠していた。これは、ショックを受けているのか?  よくわからない反応についていけないが、正直に話せばこうなる。 「あ!裂けたか!?痛かったろ!?」  と思ったら今度はガバッと起きて両肩を掴んで来る平三。今日のこいつはやけに怖いというか……絡みづらいぞ?  どうした? 「痛かったが裂けてはなかった。いつの間にか指三本も入ったんだぜ」  そして心の中で『このクソビッチ野郎』とまた自分に罵倒。……もうツラいからやめよう。  王司でもないのにこんなソロドMプレイをしてなにが楽しいんだ。ビッチビッチって……ヤリチンの方がまだよかった。  しばらくは脱・童貞も夢のまた夢だなあ、と遠い目をしながら平三に体を揺られに揺らされていると、木下が独り言のように呟いてきた。 「やっぱ痛かったんだろうな」  漫画を読まずに俺の話を聞く木下の態度に、いまだ慣れないでいる。  回転する椅子にクルクルと回りながらしみじみとしているが、こいつもどうしたんだ……。 「とはいえ、二人には礼を言うよ」  俺の言葉に、俺を見た二人。  悲しそうな表情の平三、難しい顔を浮かばせる木下。  どう思っていようが俺はきっと二人がいなかったらスッキリしていなかったし、悩みに悩みまくって同室者を変えていたかもしれない。  そんでもってやって来るのは、後悔だ。 「王司の気持ちはわかっているから、あとは俺が伝えれば済む話だ。平三は無理矢理好きにならなくてもいいとか言ってたけど、案外、無理矢理ではなかったかもしれない」 「……じゃあ、普通に王司を好きになったってことか?」  眉を垂らして、だけど顔が良いからイケメンから可愛いにチェンジするフェイス。……あれ、なんで普通に顔とか言えばいいのに“フェイス”とか言ったんだ俺。  それは置いといて、平三がやけに気にしていた感情についても、心配させないよう言っておく。 「そうだな、普通に王司を可愛いと思っているし、たまに見せる顔もカッコいいと思うし、行動もなにもかも、良いとさえ思っているよ。……なんかこれだけじゃ容姿だけで好きなの認めてるように聞こえるが」 「……まさかのここで中沢様から惚気をいただきましたー」 「なら、いいんだ。王司が好きなら、はやく付き合っちゃえよ」  小さな声で茶々を入れてくる木下を無視するぐらい平三は本気で考えてくれていたらしい。  なにをそこまで心配してくれてんのかまだわからないが、いつかその理由がわかって、違う形で感謝したいとは思っているな。  今は菓子しか出せないけど……そう思いながら実は持ってきていたクッキーを二人に渡す。 「真剣も、たまにはいいんだけどさ……」 「どうしよう奥さん……今日だけ中沢が壊れてるような気がするぞ……」 「……チョコクッキーの形が、う、んこって……」 「はやく食えよお前等。好きだろ?クッキー」 「なっ、中沢は器用だなぁ!こんな……こんな綺麗なうんこクッキー初めてだ!」 「木下!中途半端なフォローすんなよ!」  俺の嫌がらせはもちろん王司にもしといた。  さすがに会長様には渡そうとはしないけど。    *   *   *  

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