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初デートは寮内食堂で
キッカケは、冷蔵庫を覗けばほぼ空状態だったからだ。
日々の暑い中、俺はもう何日と外に出ていないか……カレンダーの日にちを数えたら終わりだと思って視界に入れないようにしている。
木下は毎日“夏のホモシーズン”で漫画が届くらしく嬉しそうに読んでいるため俺より出ていないんじゃないか?
というより、陽も浴びていなそうだ。
平三は決められた曜日しか外に出ていないとか。
忘れがちだけど、あいつはサッカー部のエースだ。
友の仲とはいえサッカーに興味がない俺は平三の試合など行った事がないが、なにげに部活動はしているみたいで会うたびに暑いと連呼。
ただ日焼けしにくいのか、肌が焼けたとかの変わりはない。いつも通りの平三で俺と木下に混じってダラダラしている。
が、そんな二人も今日は用事があるみたいだ。
「ふう……」
俺一人、暇でこうなりゃ菓子でも作るか、と冷蔵庫を開けたら現実に直視問題発生。
なにもなければ作れるものも作れない。
「智志君、どうしたの?」
自室から出てきた王司は冷蔵庫を開けっ放しで突っ立ってる俺に話しかけてきた。
「いや、材料がねぇなーって」
「あぁ、最近は暑さが続いて買い物も行くのが嫌になるもんね」
そう言いながら俺の隣に来て中身を見ると、小声で『本当になにもないな……』と呟いていた。
あー……でも行きたくねぇな……。せめて夜だ。夜の時間に買い物だったら昼間よりマシだろう。……熱帯夜とテレビ中で騒いでいたような気もするが、チクチクと痛む太陽よりじっとりした方がいい。
というわけで――。
「メシは食堂だな……」
「今日のご飯?」
別に王司に言ったつもりはないんだが……。でもみんなはほとんど帰省してていない。俺と王司が食堂で食べてて、見付かるとしても会長様ぐらいか?
他にも確かに生徒はいるがこの時間なら食堂を利用しに来る奴等もいないだろう。
そう思い、遅めの昼ご飯に俺と王司は食堂へ向かう。
寮内の食堂に向かう途中から、ここについた今でも誰ひとり会う事なく出来た。俺はともかく王司にあれ以来、もう一度帰ってやれと言ったことがある。
だがそこだけは言うことを聞いてくれなくて結局、今年の夏は帰らないと……俺の目の前で親に電話しやがったのだ。
さすがに空気が重かった……電話越しから聞こえてくる母親みたいな高い声に何度ジェスチャーで『帰れよ!帰ってやれ!』とやったことか……。
ほぼほぼ俺のせいで帰らないと決めた王司だからな……王司の母親は寂しいだろうよ。そんな気持ちを受け取れるか?
なんて言われたら余裕で首を横に振れる。
王司との初セックスよりも王司の母親を気にしてしまう。
その前に、セックスと他人様の母親を比べる下品さを直した方がいいか。
いつだか本屋で出会った女の子に友達と両親を天秤にかけて比べた例えを出したっけ……あれも失礼だよな。
「誰もいないね」
「だから食堂のばーさんも一人なんだよ。無人だ」
ピッ、とオムライスとサラダセットの食券を買って、次に王司の食券を買うまで待つ。
「唐揚げ……俺もそうそう言えないが、お前の体は夏バテを知らないのな……」
「夏バテ?そうだね、知らないや。お腹は空く」
羨ましい。
さり気なく俺の食券も持って王司が食堂のばーさんに渡せば久々のイケメンに会えた嬉しさだろうか。いつもより数倍ニコニコして『待っててね!』とか言ってた気がする。
その間、窓側に座っている俺。日陰になっているから変な暑さは感じていない。
そこで王司もやって来て、対面式に座った。
「……」
「……」
なんか、変な感じだ。
王司と部屋以外では喋りかけるなと言ってあるからか……。
ほとんど誰もいない状態のこの場で、みんながよく利用するこの場で、王司といるのが不思議な感じで落ち着かない。
「……」
「……」
ぼあ、とついていたエアコンの風が強く吹き始めた。
ばーさんが設定してくれたのか、それともそういったシステムで反応しただけなのか、知らないが涼しくて良い。
「……」
「……さとしくん、」
すぐそこなのに遠くから聞こえるような料理の音。
ばーさんが一人で二人分のご飯を作ってくれてる音が耳に入る。ゆっくり流れる時間が感覚的にその倍、ゆっくり過ぎる。
全てがスローモーションのように感じるのは、何故だろうか。
「デート、みたいだね」
「……」
きゅっ、と手が重なり、握ってきた王司はどこか嬉しそうだ。
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