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甘い釣り師
俯く王司に溜め息を吐きながらも、このまま部屋から出て行ったら後味が悪過ぎる。……こいつだけじゃないんだ、俺にもそう思う感情ぐらいある。
どう言えばこういつは納得したうえで生徒会にも行けるのか考えていたら、玄関越しにいる平三の声が聞こえてきた。
「智志?いねぇのー?」
あぁ、待たせてるよな、悪い。
視界を玄関に入れながら俯く王司の膝の上に跨る俺。
こういうのが、王司を悪くするのかもしれないな。
「……さとしくん?」
そのまま両手で王司の顔を包むように触れて目を合わせた。泣きそうな面は変わらず、だけど俺の行動によりどこか期待を含むような目。
俺も王司に甘くなったなぁ、と自分に苦笑。
「王司、とりあえず行ってこい。で、帰ってきたらいっぱい構ってやるよ」
「っ、智志くん……!」
「んなっ……!やめっ……!」
本当にスイッチが入る前でよかった。
勢いよく抱き着いてきてキスをしようとする王司に素早く顔を背ける事が出来て本当によかった……!
変わりに頬に口付けられたが、まぁいいだろう……。
「ふう……」
王司が自室へ戻り、部屋着から制服に着替えてる間、一息ついてやっと玄関のドアを開けた俺。
平三はいたが、どこか裏のありそうな笑顔で立っていた。
「大変そうだな」
「悪い、待たせた」
「いや、いいよ」
ばたん、と音を立てて閉まるドア。
「智志は本当に王司に甘くなったよなー?」
「あー……」
こういうのに察しがいい平三相手がツラい。
まあ、でも、自覚はしている。だって可愛いんだからしょうがないだろ……それに加えてカッコいいんだぞ……。
また表情豊かで面白ければ気持ちも全面的に出ていて……今までに感じた事のない思いが来るっつーか……。
「まぁいいんだけどさ。智志が無理矢理じゃなくて、ちゃんと想っているなら」
「ん?あぁ」
あまり理解しないで平三の問いに返事をすると、今度は悪い顔をしながらパパッと出してきた長方形のパッケージ。
それはもう俺にとっては目が輝くほどのもの。
「マリっ――髭じいさんのゲーム……!」
平三がバカにしていた俺の大好きなシリーズもののゲームソフトだった。
「甘くなるのはいいんだけど、今日は王司よりはやく帰れたらいいなぁ?――このゲーム、やりたいだろ?」
その言葉につられて俺はつい頷いてしまい、深夜まで木下の部屋にいるかもしれない展開がやってきてしまった。
悪い王司……俺を釣るのが上手い平三のせいなんだが、悪い王司!
俺の夜はこれからだな!
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