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夏終わりの過ち

     *   *   * 「休みってなんでこうもはやく終わりに進むんだ……」 「ダラダラ過ごしてるからだろ」 「松村もだいたいそうじゃないか……はぁ、怠い。そしてなぜ中沢は寝てんだよ。おーい、起きろー」  そう言いながら木下は俺の肩を掴み揺らしてくる。  実は起きている俺がどうして寝たフリをしているかというと、とくに理由はない。  いつものように三人で寮内の食堂に向かい、過ごしていた。  夏休みだ……不規則な生活になるのもしかたがないと思っといてくれよ。木下なんて毎日が不規則で怒られてもいいレベルなんだから。  だけどいつもいつも夜更かししている人間と、たまに程度で夜更かしをする人間はこうも差が出るみたいで、少し寝ていただけ。  だんだんと平三と木下の会話が聞こえてきて、揺らされてる最中だ。  起きてもいいんだが、今日の食堂はいつもより少しだけ賑やかだったりする。  木下が言うように、夏休みが終わるまであと二週間を切ったせいだ。 「みんな帰ってくんのはやいのな。去年もこんな感じだったか?」 「前半は家に帰ってお盆が終われば友達と遊びたいがために帰ってくんだとさ。部活の奴等が言ってた」  そんなわけで俺が起きない、起きれない理由の一つでもある、食堂にいつもより人が多くいるせい。  今さらだが、久々にこの感覚を味わっているような気がする。  コトッ、と響いたテーブルに耳から直に伝わった原因は木下が漫画を置いたせいだろう。顔を伏せて視界を自ら奪えば聴覚が意識してよく耳に聞こえるものがある。  それは遠かろうが、近かろうが、関係なく。  もしくは木下の部屋に行ってもいいんだけどな。 「あ、おーい!木下ぁ!」 「んぁ?」  と、そこで聞こえてきた声。  叫ぶ名前に一瞬だけ静かになった食堂だが、またすぐ賑やかになり、自分達には関係ないと言うかのように喋り込む周り。 「久しぶり、木下!松村も!」 「おぉ、というか焼けたなお前」 「北海道もやっぱ暑いんだなぁ」  こっちもこっちで夏休みの土産を渡しながら話し込んでいるみたいだ。  そいつの実家はどうやら北海道らしく『あっちよりこっちの方がジメッとしてて気持ち悪いんだ』なんて言っていた。  声からして俺の知らない奴だろうし、あちらさんも俺をよく知らないと思うから寝ている奴がいても気にせず喋るんだろう。  俺も俺で気にせず、もう少しこのままでいようと決める。  そういや今日も王司は生徒会だっけ。  夏休みにもかかわらず制服を着て学校に行くんだからめんどくさそうだよな。……あ、今日のメシはまた蕎麦でもいいかなぁ、なんて思っていたところで再び、北海道民も混じった三人の会話が耳に届く。 「そういや木下は彼女出来たか?」 「いや?むしろ見るものもなくなってきて会長と松村ぐらいが保養だったけど」  真面目な声からして真顔で言ったんだろうな、と思いながら耳を傾けていると平三が『俺で保養するなっ!』とちょっと声を張っていた。  どうでもいいが、そんな目で俺と王司のことも見てんのかな……木下なら絶対にあり得そうだ。 「そりゃよかった。松村も変わりなくラブラブで」 「いや、そーじゃなくて……」  諦めた声を出しながらもう相手にしたくないのか、俺に寄りかかってくる平三。重い。 「木下も、変わらず女が対象でよかったよ!」 「はぁ?」  遠慮なく寄りかかってくる平三を受け止めながらずっと聞いてると、どうやら北海道民の言いたい事がわからないらしく木下が小バカにしたような声を出して返事をした。  確かに北海道民だけがポンポンと話が進んでて、なにが言いたいのかわからない。主語って本当に大事なんだな、と実感するまで思うこと。  だけどその一言があれば、すぐになにが言いたいのかわかる。 「木下、今日――合コンに行こう」  きっと北海道民は爽やかな笑顔で言っただろう。  どうせここの生徒だ。顔面偏差値が高いに決まっている。  

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