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夏終わりの過ち
「は?合コン?どこと」
「女子大生とッ」
それはそれは、語尾にハートマークがついててもおかしくないような言い方であった。
話を聞いてみると北海道民の実家は喫茶店をやっていて、そこで出会ったのがこっちの学校に通う女の大学生らしい。
話も意気投合して、お互い相手もいなくて、男子校女子大で出逢いがないから作ろうか、で出来た話らしい。
急遽決まったこととはいえ北海道民はその女が気になってしょうがないから、もう一度会いたいがために人を集めてるとか。
それで木下か。ここの学校でノーマルとか少ないもんな……俺もそっち側のはずだったんだけど。
「なぁ頼むよー。興味、なくはないだろ?」
「なくは、ないが……女見ててもなぁ……俺の趣味に理解出来る子なんてそうそういねぇし」
「マジで頼む!数合わせだけでもいいから行こうぜ!」
パンッ、とかわいた音が響いたのを聞いて、たぶん北海道民は手を叩いて体を折って懇願しているんだろう。
それでも悩み続ける木下に、ホモ漫画ってすげぇんだな、と思った。
確かにほとんどの奴らが実家に帰って、ホモと言うホモが見れなかったのは事実だ。女を作れるチャンスなのに、その、ホモ不足で行くかどうか迷うだなんて……贅沢だなぁ。
まぁ全体的に俺は関係ない話だからいいんだけど。
そろそろ本当に起きよう。
ピクッと上体を動かせば寄りかかっていた平三も動いて退いてくれた。
「智志、おはよう」
「……おう」
本当はずっと起きていたけどな。
それでも眠い目を変わらず擦っていたら、北海道民の声で『じゃあお前も!』と聞こえてきた。
誰だ、次なる犠牲者は……なんて、そいつを見ると、
「中沢も行こう?ほんと頼むっ!」
俺を指差して、俺に土下座していた、古河 がいた。
隣クラスの……というか、知り合いだったわ。一年の時に同じクラスだった古河。
まぁそれほど喋ったことないからちゃんと顔まで見ないと古河って想像出来なかったわ。
「中沢は人と接するのが嫌いって松村から聞いてたけどさぁ……お願いしますぅ……!」
ぺたぁ、と地に頭をぐりぐりつけて願う姿が笑えてくる。堪えたけどさ。というか平三の奴、そんなこと言っていたのか。
俺が人と接するのが嫌いだとか、苦手だとか、間違いじゃないから言ってくれてもいいんだけどな……いいんだけど、困ったな。
合コンの前に俺、
「中沢だって俺と同じでノーマルっしょ?関わるのが嫌なら木下と同じで数合わせで女の子達の相手しなくていいから!二人が揃えば数は完璧なんだよー……」
……男が、いるんですけど。
なんて、言えなかった。言いづらかったんだ……。
頭は下げてもケツは上がっていて、それだけで楽しみにしているんです、と言ってるような気がしてならない。
それにこんな俺に土下座してるなんて、周りから注目の的となっている。それがまた堪えきれなくて、つい『わかったよ』と答えてしまった。
瞬時に平三がバッと俺の方に顔を向けてきたが俺はそれを知らないふりして平三とは違う方へ顔を向ける。
内心は、やべぇ……どうしよう……――と激しく後悔中だ。
「やったぁぁぁ!じゃあ二人とも夕方に学校の方の校門前に集合!松村はお幸せにっ」
それだけ言って古河は元気よく立ち上がり、走って食堂から出て行ってしまった。
わかった、と言ったが、俺は行く気なんてさらさらないことをはやく平三に伝えなきゃいけないような気がして焦る。
でもしょうがないだろ……あんま話した事なければそこまで喋り上手でもない俺に、あんな姿でお願いされて、しかも狙ったかのように大声で言ってたせいか視線も痛く感じて……それで断れなかったんだ。
「智志、いくらなんでも……」
ほらきた。
「ちゃんと断るっつの……あー、怖かった」
「えー、中沢が来なきゃ俺も行きたくないんですけどぉ」
「木下は行けよ、智志はダメ」
平三から感じる怒りをなるべく触れないように頷いた俺はまた顔を机に伏せた。
その場しのぎで答えた言葉によって、煩わしい過ちを犯した事にも気付かずに。
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