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迷走の確認
「じゃあ中沢、夕方にな」
「だから智志は行かねぇよ」
漫画を片手に別れ際、思い出させるかのように言ってきた木下と反対する平三。そしてふざけたように笑いながら先に部屋へ行ってしまった木下に、俺は少し恨みを覚える。
こんな状態の平三と二人きりにさせるなよ……!
空気読め。
「まぁ平三、落ち着けよ。俺は行かねぇからさ」
「わかってる……智志が行かないと決めてるなら行かないだろうって。だけどさ、仮にもし行かないといけないような展開があったら、って考えるとなぁ……」
ムスッとした顔で背を壁に寄りかかりながら腕を組む平三。
どこまで心配しているんだ、と思うぐらい俺のことを考えてるのは嬉しい事なんだが逆に、そこまで信用されてない、のではないか、と。
こっちもこっちでそんな考えをしてしまう。
俺は本当に行く気なんてない。仮に行くような展開になったとして、合コンとやらに行ったとしても一言も喋らず終わるだろうよ。
古河の話を聞く限りポワンッと浮かぶメンツの顔。俺が覗いてショックを受けた、7組野郎がほとんどらしい。
名前こそ知らない奴もいたが学年で一番、顔面偏差値が高いクラスなんじゃないかと思うぐらいだから。平凡な男である俺に女子大生さん達は相手にするはずもないだろう?
平三がそこまで心配する必要なんて、ないんだ。
「とりあえず、落ち着けって」
「……そうだな」
肩に手を置いてもう一度、平三に言ってやれば苦い顔をして『考え過ぎだよな』と続けた。
あとは断るだけだ。だが古河の連絡先なんて知らない。
木下に、行かないと伝えろと言ったところであいつはなにも言わず俺を連れて行くか、古河に伝えず木下も行かない方でバックれるか……そのどちらかだと俺は予想する。
ならば俺が直接、古河に行かない事を伝えた方がはやいんじゃないか?
しょうがない、夕方に学校の校門に集合とか言ってたっけ……その時間になったら向かってちゃんと言おう。
そう思いながら俺は平三と別れて部屋に向かい始めた。
掛けていた鍵をあけてドアを開けると、見慣れた靴が綺麗に並べてあったのが目に入る。
「おかえり、智志君」
「あぁ、生徒会もう終わっていたのか」
返すと王司は爽やかな笑顔で頷きながら俺が上がるのをずっと待っていた。
急かされてるような気持ちになりつつ靴を脱いで手を洗えば、ジュースが少し残っているコップがシンクにほっとかれているのを発見。
これだけは譲れない俺はつい口にしてしまう。
ちゃんと洗うか流せよ、と。
「王司……」
ジト目で王司を見れば最初はなんのことか把握していなかったみたいだが、俺がいるキッチンの場所を見て思い出したのだろう。
慌てて近付いてきた王司は飲み残したコップを手に洗い始めた。
「ご、ごめんっ……」
とはいえ俺の性格なんてこれだけだ。これだけのために謝る王司も王司。疲れたりしないのか?
平三みたいに抵抗するとか、そういう意味ではない。
こんな小さなことでいちいち謝っていたら……なんて、ジト目で王司の名前を呼んだ俺が思うことじゃないな。
これだけはしかたがない。気になるからしかたがないんだ。
「王司、夕飯はなにがいい?ロールキャベツを久々に作ろうと思っているんだが、どうだ?」
手を洗い終わり、ソファーに座る。
「夕飯?ロールキャベツ?」
王司も王司でコップを洗い終わったのか俺の隣に座って来た。
毎度のことながらくっつき過ぎてキツイ。こいつに遠慮という言葉はないのだろうか。
「作ってくれるの?」
「は?いらねぇなら食堂でもいいけど」
そう言うと王司は首がぶっ飛ぶんじゃないかと思うほど横に振り、そして大声で『食べたい!』と。
ロールキャベツとは言ってみたものの中に入れるためのひき肉がなかったっけ。
古河に断るついでに買い物も行ってこよう。
「あとは、そうだな……サラダもキャベツを使うか」
「……そんなにキャベツがあるのかい?」
「んー?んー、まぁあるなぁ」
俺の肩に寄りかかってくる王司。
腰に手が回ってきて、それに応えるように俺はその手を繋いでやった。
8月の下旬に差しかかってる今、当たり前に暑い夕方に買い物はツラいものもあるが、なくちゃないで作れないしな。
にぎにぎと俺の指で遊ぶように動かす王司の手。若干しつこさはあるが、断る夕方の時間までまだ暇がある。
少しは付き合ってやろうじゃないか。
「王司の相手は少し暴力的な人でも似合うかもしれないな」
「え?」
話題作りに好きなタイプ話でもどうだろうか。
合コンに影響?
そうかもしれない、が、気になるだろ。――少しはさ。
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