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迷走の確認
受け止めたい一心ではあるが、今のタイミングじゃ適当に流す自信がある。
時間に追われてる身だからな……それだけは嫌なんだよなぁ。
古河の件や、これから来る木下の件がなければ、ふるふると震えて顔を赤くする王司に笑いながら抱き締めて、俺の気持ちを言ってやり、ハッピーなエンドとして迎えることが出来るわけだが。
今は全く違い過ぎる場に、俺は一人で焦る。
「さとしくん……」
ぎゅっと、本来俺が抱き締めるはずだった場面で、王司が抱き締めてきた。
ここで返事を出さなきゃいけないんだろうけど。
「王司、ちょっと待て」
悪いがもう少し、そこにいろ。
数日後とかの話じゃない。数分、数十分待ってろってことだ。
それなのに王司からしたら流れが違うと思ったのか、不安になったんだろう。
「や、やだ……!」
震える体はまた一段と大きくなり、声も震わす。首辺りに回ってきた両腕の力も強く、冗談なしで絞まってるような気がしてならない。
苦しいが、一旦ここは我慢だな……。
「そうじゃない、わかったから離れろ」
気持ち程度で王司の背中に腕を回してポンポンと優しく叩きながらあやしてやるが、
「いやだって!」
だめみたいだ。
「智志くんは女の子がいい?女の子じゃないとやっぱり嫌だ?俺じゃダメ?どうして?変態だから?マゾだから?でもそれは全部さとしくんがわからせてくれたんだよ?関係ないとかの話じゃない……──男は、ダメ、かい……?」
「……」
というより、こいつの自己解釈が激し過ぎてイラついてくる。
このイラつきは迫る時間と、この部屋に来るらしい木下のことでもあるんだろうけどさ。
そうだ。そうなんだけど、王司の言ってる事が今さら過ぎてイラつく。
「挿れられるのが、イヤなら、おれ、がんばるからッ……」
ついには泣く始末。
そうじゃねぇのに、こいつは本当に人の話を聞こうとしない。俺の言うことを聞いて、それから俺の話を聞いて。
そんでもってもう一度よく考えたら、結果なんてすぐわかることなのに。
「王司、そうじゃないと言ってるだろ?落ち着けって。とりあえず、俺はこのあと用事がある。すぐに済むから、それから話そう。だからお前は少し待ってろ」
でも俺の話し方も悪いんだろうか……さっさと、軽く最初に言って、そのあとにもう一度伝えればいいんだろうけど。
そこまではわかっているつもりなんだけど、やっぱり迫る時間とこの部屋に来る木下の焦りで、こういった遠回しな話し合いを持っていかせようとしてしまう。
頼むから王司、わかってくれよ。
「王司、おうじ?聞こえてるだろ。本当に少しなんだって。学校に行ってくるだけだから」
徒歩で5分ほど、往復10分を目安に走って行けばきっとその半分で全部終わるはず。
そう思って抱き締められてる王司の腕を無理矢理、外して立ち上がりスマホを手に持つ。
財布は、行かないんだから必要ないだろ。買い物は全部終わらせてからにしよう。
いろいろ考えながら王司のことももちろん忘れない。今だけは優しくしてやらないと、こいつは本当に――。
「智志くん……合コンに行くんだ……」
「……は?」
――優しく、してやらないと、本当にこいつは――
「俺なんて、どうでもいいんだろ……本当は気持ち悪いって思ってるんだろ……。いいよ、智志君に気持ち悪がられたって。いいけど、気持ち的には――さとしくんは、おんなのこが、いいんだ……おれなんてっ、ん゙ーーッ!」
支離滅裂にもほどがある言葉だ。
そんな王司に、もしかしたら、キレてしまったのかもしれない。
今まで殴ったこともない王司の整った顔に拳を一発、入れてしまった。
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