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そのまま話を聞いてろ

   ソファーに倒れ込んだ王司の口端からは血。元から泣いていたこともあり、涙が次々と溢れ出ている。殴られた衝動と王司自身、パニックで浅い呼吸しか出来ていない。  しかし、こんな状況でも勃起だけは忘れないこいつの体。 「はッ、はぁっ……ん、」 「……」  俺が殴った手も、手の甲にも血が少しだけついていた。  ヤバい――とは思ったが、殴ったあとも胸ぐらを掴んでもう一度殴りかかろうとまでした俺はそこまでキレていたんだ、と自分を落ち着かせる。 「行か、ないでよ……さとしくん、やだァ……」 「……お前は本当に、」  掴んだままの胸ぐらに王司は弱々しくも俺の手を握りながら、近い顔に口を震わせている。  本当にこいつは人の話を聞こうとしない奴だ。俺が今ここで『行かねぇよ』と言ったら、納得してくれたかどうか。  それすらも怪しいのに、さらに聞く気もあるんだかないんだかでしつこい。 「智志くんッ、さ、としく、ん……っ」  顔を俯かせてるせいで表情をちゃんと確認出来ないでいるが、涙はボタボタと王司の太ももに向かって落ちていく。  俺の手にも落ちてくる水滴を見て、一滴一滴と相当な大きさの涙だと予想。たまに混じるしゃっくりに背中を叩きたくなる。 「いやだ智志くん、やだって……女と、話さないで、ほしい……っ」  ズビッ、なんて鼻をすする音まで聞こえる。だけどこいつの顔は涙でぐちゃぐちゃになりながらも、鼻水まで垂らしても変な顔じゃないんだ。  それはそれでムカつくほど、逆に綺麗だと思えるものだからおかしい。  王司を慕う者から見ても、そう思うかもしれないし、俺だけがそう思っているかもしれない。  王司に変な表情なんてないんだ、と言い切れるまでには。 「だから、話を聞け、クソッタレ」  全く顔を上げない王司に話しかける。  小さく頷く王司に胸ぐらを掴む手はそのままで、いまだに勃つチンコは変わらず。……時間はどうこうでも木下が来るのは、あと少しだろう。  それまでには、なんとか。 「俺は今から、学校に行く」  ゆっくり話を続ければ王司の手に力が入ったのがわかる。  それでも暴れなくなったのはちゃんと落ち着きを取り戻したからであろう。 「俺は、合コンには行かねぇよ」 「ん……ッ」 「泣くな、アホ」  ここで掴んでいた胸ぐらをゆっくり離して王司をソファーの背もたれに寄りかからせる。  離したといっても王司から手は握られたままだ。 「学校に向かうのは誘ってきた本人に直接、断りに行こうとしたからだ」  俺は立ったまま、新しく伝ってきた涙を左手で拭ってやってみたものの、まだ溢れてくるからどうしようもない。 「さと、し、くんっ」 「まだ話は終わってねぇよ」  ギュッと握られてた手に力が入りながらも、それがそろそろ愛おしくなりはじめて、俺なりに──危ない──と思い、注意がてらでその手をはらった。  俺となにも繋がりがなくなった王司は不安を抱いたのか、次に俺が穿いてるジーンズの太もも辺りを小さく掴んできたが、まぁいいだろう。 「ちゃんと断って来るから、それから話そう。俺の気持ちもちゃんと言ってやるし、お前の気持ちだって……だから楽しみにして、全裸で待ってろ」  そう言って俺は掴まれた手をゆっくり離してやり、玄関に向かう。  手の甲にまだ血が付いていると気付いたが、適当に服で拭っといた。  最後に王司を視界に留まらせた姿はまた泣きそうな顔で目を擦っていたものだった。  

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