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そのまま話を聞いてろ
ドアを開けて右左確認をすれば、まだ木下は来ていない。
なんとなくホッとして音を立てながらドアを閉めれば、曲がり角から呑気に漫画を読みながらやって来た木下。
さっきまで着ていた服と違うから、こいつは行く気があったのか、と思うだけ。
「よう、中沢。お前マジで行かないんだなぁ」
漫画を閉じながら片手をあげる木下。
俺の服が変わっていないところを見て言ったんだろう。
「行かねぇよ。なんか平三が怖ぇし」
王司も王司で結構めんどくさいから。
「えー?ちょっとぐらい良いと思うけどなぁ?HAHAHA!……チッ、これで王司の嫉妬コースが見れると思ったのに」
「おい心の声……!」
「い……ッ!ごほごほっ……!」
ゴツ、と木下からの直伝で教わった護身術を片手に腹筋を殴れば咳き込む。真面目にしてもおふざけにしても今は洒落にならん。
きっとおとなしく待つスタイルになっているであろうドア越しに俺は鍵をかけて、やっと歩き出した。走る予定だったがもういい。
王司はわかってくれてるだろうし、10分もありゃ楽勝だ。帰りは走ればいいんだからな。
それから校門前に向かえばもうすでにメンバーが揃っていたらしく、残りは俺達二人だけだったらしい。
こんな状況から断るとか結構、勇気いるよなぁ……。うわ、7組のワイルド系イケメンと可愛い系イケメンがいやがる。
「お、会計さんもいんじゃねぇかー」
木下が呟いた言葉にドキッときた。
この学校での会計はイコール生徒会の奴だ。そして現在の会計は、飯塚先輩。
歩に近付くな、と物理的に近い忠告を受けて以来、苦手な存在で会うたび会うたび木下から離れてなるべく平三の後ろを確保してたほど。
いや、木下の親友枠にいるらしいから殴る事は絶対にないっぽいんだが、やっぱな……。
最初が最初だったからさ……。
「やぁやぁ二人ともー!今日はありがとな!」
とてつもない笑顔を放つ古河もやっぱりイケメンだ。というか、さっきよりも今がイケメンに見えると思うのは、この合コンに賭けているからであろうか。
まぁ出逢ったその女の大学生と上手くいきたいよな。
「俺はいいんだけどさ、中沢様がなんかあるらしいぜー」
「ん?中沢、様……?どうした?」
……俺、マジで木下を恨む気満々かもしれない。
あー、でももういいや。木下の性格なんてわかっていた事じゃないか。それに俺だって木下にいろいろ迷惑やらなにやらかけてんだから、今のは許そう。
これでいつか王司の事も言われたらどうしようかと、ハラハラしていたが、それも――もう、な。
近付いて来る古河に集まったみんなは携帯をいじったり話してたりで、ざっと6人、7人ほど。
「悪い、古河」
その中から俺は頭を下げて、古河に謝る。
事情を話そうと――もちろん王司の事ではない――思っていたが、こいつは意外にも良い奴だったみたいだ。
「あぁ、やっぱり?俺も誘った時は必死だったから頭が回らなかったんだけどさ、やっぱそうだよなー。松村もかなり言っていたし……」
『俺も悪いんだ』
最後に付けたした言葉に内心、平三にも礼を言いながら古河にもう一度謝る言葉を口にした。
「人数揃ってなくてごめんな」
「いや、いーよ。もうハーレムになってくるわ」
こいつはハーレムの意味はわかっているんだろうか。
そんな事を思いながらチラッと周りの様子を見ると、全く興味がなさそうにさっきと同じ感じで安心をし、小さな溜め息を一つ吐く。
変に注目されないのは度の超えたイケメンがいないからか?
同等である野郎を見てもしかたがないと思っているのか、どっちだ。
木下といるだけでも校内では視線を浴びる日があるんだけどなぁ。さすがノーマル。
「でも人数が揃った方が不憫なく出来上がる可能性もあるだろ」
そこで木下が口を挟んできた。
木下が発したその言葉に古河は苦い顔をしながら、
「そりゃそうかもしれないけど、俺達は高校生だからなぁ。きっと遊んで終わるのがオチかもよ」
気の弱い発言をかました。……顔がいいとそこまで考える余裕がうまれんだな。
俺は感じたことも考えたことも、そこまでないからどうにも言えないが。
「飯塚先輩はもともと参加してるメンツ?」
その返事に古河は首を振った。
どうやら生徒会が終わって帰ろうとした時、合コンに行くメンバーの一人が話しかけたのがキッカケであそこにいるらしい。
それを聞いた木下はすごい笑顔で『じゃあ飯塚先輩を誘うか』と言った。
「……っ、」
あとの事は知らない。
木下に呼ばれて近付いて来る飯塚先輩に恐怖のドキドキを躍らせながら慌てて俺は寮へ戻ったから。
もちろん古河にはもう一度、大きな声で謝ったが、飯塚先輩から睨まれていたような気がしてならなかった。
「わぁ、中沢のやつ足はやいな」
「古河ァ、もう中沢を誘わない方がいいぞ」
「へ?なんで?」
「あー……んー、松村ママに怒られるからですっ!」
「あ?……あぁ、過保護にもほどがある松村の“愛”な。中沢も感化されませんよーに!」
――もう遅ぇよ……。
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