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手錠様

  ―――――――――…… ――――――――……  なんとなく暑さを感じて塞がるまぶたをゆっくり開ければ、カーテンの隙間から太陽の光が射し込んでて眩しかった。  ボーッと視界いっぱいに広がる見慣れたようで見慣れない天井に、回らない頭を回す。  あー、そういや王司……なんて探さなくても左腕に感じる不自然な重さに気付いて、探す気力が失せた。右の手もしっかり握られてるな、これ……。 「……」  ここは王司の部屋で、王司のベッド。  あまりにも突いてくるせいで俺の体がヘトヘトになり、終わったあとは全部王司に任せてたっけ……。だから風呂もきっとこいつが入れてくれただろうし、今着てる服も王司が着させてくれたんだろう。  あやふやな思い出しに飛び飛びである記憶。  ずっと好き好きとか言われてたなぁ、とどこか嬉しい気持ちを胸の中で感じながら、だけど表には出そうとせずに隠しといて、王司を見ようと首を動かす。  相変わらず綺麗な顔立ちに肌の色が健康的な白さで、射し込んでいた太陽の光に反射するんじゃないかと思った。  そして、形の良い唇の横には、昨日までは目立っていなかったはずの傷跡。口端にそって縦線にピッ、と切り傷がよく見える。  俺が知ってる限りの傷は血が付着したままだったから結構な怪我をさせたと思っていた。  でも風呂で洗い終わった顔で血がなくなり、隠れていた傷だけが見えてる。あーあ、しばらく残る傷かもしれねぇな……。  起こさない程度で触ろうと、だけど左腕は王司の頭が乗っていて腕枕になっているため、手が繋がれてるだけの右手で触ろうと動かした、その瞬間――ベッドの中のせいで鈍い音しか聞こえなかったが、 「……え」  カチャ、と音がした。 「っ、ん……さとし、くん……?」  そして、手を離そうとしただけで起きた王司。そんな王司を気にせず掛け布団で隠れていた俺の右手を見るために剥いでみる。 「なんだこれ……」  俺の右手首と王司の左手首が、手錠でハメられていた。その手錠は久々に見たような気がするものだ。  つまり、これは王司の手錠であり、おそらく王司がハメた状態だろう。……なぜ。 「あ、智志君……おは、よ」 「はよ……なあ、王司くん」  俺の問いかけになにか察したのか朝からビクつきながら『はい……』と小さな声で返事をした王司。  確かになにか言おうとはしているが、これはもう溜め息だけで済ませてやろうかどうか悩みどころだな……?  つーか、なんで自分自身の手首までハメてんだって話だ。流れ的に俺だけを拘束すりゃいいのに。んで王司が隣で寝るなり抱き着いてくるなりで……おかしいな。  やっぱりこいつの行動が理解出来ねぇわ。 「……ちゃんと鍵はあるんだろうな」  ジッとハメられた手錠を見ながら聞いてみた。 「……ある」 「……」  あるなら、いい。でもなんだ……?  元気がないじゃないか。  セックスした後にしてもその翌日にしてもしつこいほどくっついて来て話しかけてくるのに、今日はそうでもないような……?  そんな心配をしていると、空気を読めない腹の虫が鳴ってしまった。  そういや結局、昨日は晩飯食ってねぇな……。どっちにしてもロールキャベツは作れなかったんだけど。  

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