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手錠様
「王司、手錠外せ。腹減った」
「……」
「王司?」
やっぱりおかしい王司。ハメられてる手錠を見つめながら手は再びギュッと、指と指が絡まるような繋ぎをしてきた。
そんなのどうでもいいから、手錠を外して王司の上体を起こして左腕も解放してほしいのが今の本音だ。
別に――。
「……智志君、俺から離れないでね」
「……だーから手錠をハメたんだな、てめぇ」
別に、無理して繋がなくてもいいんだっつの。
「だって、不安でっ……今日も朝起きていなくなってたら、嫌だったから……」
俯く顔に泣きそうなのかはわからなかったが、声からして不安いっぱいです、みたいな聞こえ方。
気持ちも伝えたはずなのに、その前から普通はあり得ないような行為もしてきたのに、こいつの不安原因はいったいどこからうまれてこうなるんだ。……あ、俺からか。
俺ってば意外と信用されてねぇのな。
結構、王司にはちゃんとした扱いでやってきたつもりなんだけど。言葉にしなさ過ぎた面もあったが、もうないだろう?……えぇ、なに、まだなにかわかるような形で表現したり行動したりしなきゃいけねぇの?
勘弁しろよ、こっちはこういったものは全くの初心者だぞ……木下、は――遠慮して、平三にでも聞いてみるか?
「俺、こんなんだから、引かれることだってわかってる」
話し始めながら頭を寄せてくる。
薄い胸板あたりに寄せてきたおかげで肘から手までが自由に動かせることになり、自然に俺は王司の頭を撫でた。
「それでも、智志君と一緒にいたいんだ……」
撫でられて気持ちが良いのか目を瞑りすり寄る頬。
「お前って、」
本当、なんでこいつがバリタチとか言われてるんだ……。確実に今の俺の方がバリタチじゃねぇか……。
昨日も思った通り、こいつは相当の厄介者だ。迷惑、ってほどでもないが、それに似たものを感じる。いつまでもそばにいたい気持ちは、わからなくもないが。
「智志君?」
なにも言わなくなった俺に不安だったのか、ただたんに気になっただけなのか。王司は顔を上げて話しかけてきた。
男の上目使いも悪くないと思うのは、女にされた事がないからだろうか。そんな悩みを口にしたら絶対にうるさくなるから言わないけどな。
「マジで腹減った」
ちゅっ、とおでこにキスを落とす。
「手錠を外せ」
「うん、いいよ」
キスをされて嬉しかったのか、寝起きにもかかわらず朝から爽やかな笑顔で起き上り、手錠でハメられてる俺も起き上る。
机の引き出しから小さな鍵を取り出して不穏な音とともに外れた手錠に、結構痛いもんなんだな、と手首をさすった。
つーか、メシを作る気がしない……。
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