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「智志のことが好きだよ、」/黒編

     *   *   * 「んあっ、おいやめろって、授業……」 「んー」  連れて来られたのは家庭科室の第二準備室。全く使われないどころかもう物置状態だ。  会長だからか、こういった教室の使われ頻度の把握をしているとか。  そこには下心があるんだろうけど。 「じゅーんぺい、さすがにここは嫌だぞ?」 「わかってる」  キスしたあと、煩わしそうに眼鏡を外した順平は適当に放り投げてまた顔を近付けてきた。 「へーぞー……」 「本当に甘えん坊だなー」  てっきりもう一度キスをしてくるのかと思いきや、肩に顔を埋めて俺の名前を呼んだ。それについ笑いそうになって頭を抱いてやる。  いつもはキリッとクールに立っている会長とは大違いのギャップに胸が弾む。 「今朝は眼鏡なんてしてなかったのに、どうした?」 「さっきコンタクトがズレて痛かったから入れ直そうと取ったんだが、落としたんだ。面倒だったから予備で用意しておいた眼鏡に変えた」 「へー、眼鏡姿もいいな」  智志の物がなくなるような日々が途絶えたのは、順平の、おかげだったらしい。  権力とか仕切りとか、そういった力がなかった頃なのに順平がなにかをやってくれて、みんなをおとなしくさせた、って。順平自身、今でもちゃんと話してくれないからよくわからないんだけどさ。  もう、それ込みで順平にもすげぇ懐いちゃったんだけどな。――その結果が、この関係だ。 「それより平三」  首筋に口付けされた後、順平が少し低い声を出して俺の名前を呼んだ。  心でも読まれたかなぁ、と思いつつ俺は返事で『んー?』と言いながら順平の頭に頬擦り。 「また中沢の事、考えていただろ」  きゅ、と背中に回る腕に制服のシャツを握られる。嫉妬か?  ギャップ萌えって、このことなんだろうな。  今なら木下と話が合いそうだ。 「それと木下の事も」 「おぉ、すごいな」  がち、と合う視線に順平の目は少し本気の目をしていた。  なんの本気かなんて、そんな野暮なことは聞かないでほしい。 「ちょっと、思い出した事があっただけだ。順平が気にする必要はないから」 「だって……お前は中沢の事が――」  そこまで言って、俺は順平の口を、唇で塞ぐ。  そうだよ。俺は智志が好きだ。だから王司につかまって、かなり心配している。けれど、俺が口出したってしょうがないだろ。  智志は騙されるどころかネタばらしをしても王司と一緒にいることを決めたんだから。  じゃあ見守るしかないじゃないか。  それに、好きには種類があってだな……ラブの方とライクの方。  確実に順平への想いはラブの方で、智志への想いはライクの方だ。木下だってライクの方だから勘違いはよしてほしい。  でも、拗ねるうちの会長様は、結構好きだ。 「智志のことが好きだよ、」 ――友達として。  ほら、俺の顔見てみろよ、順平。いつもみたいに見透かしてみ? 「平三」 「ははっ、茶化して悪い」 「はあ……」  え?  俺達の話も聞きたい?  それって俺と順平のこと?  どうだろうなー。  けどちゃんと俺は五十嵐 順平が好きだよ、愛してるほど! 【その時の彼 * END】  

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