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【少々番外編】暴力的な愛でもいい*王司編
智志君はいつだって俺に呆れた目を向けて、溜め息を吐いてくれるね。
それがどうしようもないほどに、嬉しいよ。
「……」
いつも周りからどこかおどおどされてて、まるで俺だけ蚊帳の外。それがつまらないんじゃない。
みんながそういう態度で、媚び売りする言動を見ていると嫌になってくる。
どうなんだろうか。
生徒会長を務める順平と、副会長を務める俺。
成績にかんしては、俺の方が上だ。順平もそれはわかっていて、嫌味なく俺の満点以上の点数を見ている時がある。
それでも順平だって周りからしたら全てをずば抜ける化け物のはずなのに、どうして俺だけがこんな、どこか遠慮するような態度をされなきゃいけないんだろうな?
俺が求めていたものじゃない。
――なにを求めていたって?
そんなの“普通”に決まってるじゃないか。
普通に、友達がいて。普通に、話す人達がいて。普通に、冗談を言い合って。
これのどこが悪いんだ。
俺に気を遣ったってなにも返ってこない。逆に、見返りも求めてないけどそんな態度をしていた人とか、余計に疑問だらけだ。……まぁ、別にいいんだけどさ。
セックスに誘われてもピンと来ない腰振りをしていただけだし。可愛い顔で微笑みをかけられても反応なんてするはずもないし。俺が見ただけで、俺自身が反応しちゃうような人が、見つかったわけだし。
「――あ、なぁ、王司呼んでくれ」
「……っ」
昼休みに、よくも飽きずに来る大群達と喋っていた時。俺の耳に、幸せになるような声が聞こえてきた。
ここから、動きたい、けど、動けない。
晴れて“恋人同士”として成り立ったあの日に言われた〝いつでも構いに来てもいい〟という言葉。本当に嬉しくて、さっそく話しかけちゃおう、と勇気を出してみた。
だけど、染み込んだ“言いつけ”はそんなに簡単には解けなくて、通り過ぎる3組のクラス。
周りからバレない程度で智志君を見ると、いつもの二人と喋っていてとても楽しそうな表情をしている。
無償に腹が立つのは、嫉妬だ。
何度も繰り返してきた。松村君にも、木下君にも、果てには順平や、絡む機会なんて一切ないだろうと思っていた飯塚先輩までにも。
智志君のそばにいる人みんなに『さとしくんと笑わないでほしい』と、勝手に不機嫌になる。
けど、もうそんな我慢はしなくても良くて、今、俺は智志君に呼ばれてる。みんなの前で、俺の名前を口にして、俺を呼ぶように頼んでいる。
緩む口元をなんとなくの仕草で隠しながら、智志君が話しかけたクラスメイトから呼ばれるまで待つ。
「王司、3組の奴が呼んでるぞ」
それでやっと声をかけてくれた子は、智志君を知らなかったみたいで“3組の奴”と言った。
まったく、失礼な奴だよ。智志君に対してそんな扱いをするなんて……けど他の人に中沢 智志という男の良さを知られるのは、嫌だからなぁ。
あー、智志君を知らない人はみんなどこか遠い場所に行ってほしい。
智志君のすべてを知っちゃったら、ダメだからね。
俺っていつの間にこんなワガママになったんだろう。
「うん、わかった」
でも、そんな事は言ってられない。
一つは周りから勝手にねじ込まれた“王子様”だから。
もう一つは、智志君の前だから。――まあ、カッコよくいきたいじゃないか。
タタタッ、と小走りで智志君に向かえば『相変わらず人気だな』と低い声で呟いた。
妬いてくれてる?
俺に都合のいい思いにすぐ、智志君は嫉妬なんてしない男だと気付く。
寂しいか、そうじゃないか……寂しいけど俺を信じてくれてるのかもしれない、なんてまた都合のいい考え方もしたことがある。
あるんだけど、彼はただただ男前なだけで0か100の決断をするから、それもいいなって……さて、
「さと――中沢君、どうしたの?」
迷う。
染み込み、染みついた体に、俺は智志君の呼び名を名字にするか下の名前にするか、迷ってしまった。迷った挙句に、名字を優先しちゃったけど。
「いや、メシまだなら一緒に、って思ったんだが……やっぱいいわ」
「えっ、なんで?お、俺、まだだよ?」
いや、本当は、もう食べていた。生徒会室でおにぎり三つは食べた。
だけど智志君と校内でも食べれるなら食べたい。智志君と喋りたい。智志くんと二人きりになりたい。さとしくんと、離れたくない。
智志君からジッと、眉に力の入った視線を感じながら俺は首を傾げて言葉を待つ。
あぁ、こんなクラスの前で、こんなにも冷たい目をしてくれたことがあっただろうか。こうやって喋れてるだけでも素晴らしいのに、どこか疼くものを感じる。
――智志くんと、エッチしたいなぁ……。
智志くんのおちんちんをしゃぶって、精液を出してもらって、いつもみたいに飲むのもいい。塗りたくられるのもイイ。もしくは乾かしてカピカピにして、とっておきたい。
あぁ、あと、息も出来ないほど口のナカで突いてほしい。
「はっ……」
口のナカにぶち込まれたい。しゃぶりたい。飲みたい、顔射してほしい。手荒に扱いてほしい。蹴られたい。殴られたい。踏まれたい。掴まれたい。引っ叩かれたい。汚い言葉で罵倒してほしい。血が出るほど噛んでほしい。
もう、挿れたい。
そしてぐちゃぐちゃになった俺は、智志くんのナカで、イきたい――。
「……」
欲望はおさまらないなあ。どういようどうしよう、どーしよー。
頭でいろいろ考えていたら、
「い゙ッたぃ……!」
目潰しに似た、まぶたの上あたりを指で突かれた。
あまりの痛さに両手で押さえながら座り込む。7組の教室前だからか、みんなが注目して少し野次馬が出来ていそうな気配を感じた。
そういえば、智志君はこういった場が苦手なんだっけ……。こんな空気を作ってしまった俺は、嫌われるかもしれない。それだけは嫌だ。
とにかくここから離れれば、そんな事態も避けられるかもしれない。
そう思って俺はまだ痛みが治まらない目頭を我慢しながら、智志君の手を握ろうとした時、右耳から痛みが襲ってきた。
「……ッ」
強く引っ張られて抓られたが、それがどうしようもないほど気持ち良くて、だけど声には出さないように耐える。
「さとし、くんっ」
ふわっ、と香った智志君の匂い。
おもわずドキッと、ムラッと来た。
「――こんなところで盛ってんじゃねぇよ、へんたいドM」
吐息混じりの声。
それだけでゾクゾクと背筋を走る快感に、もうダメだった。
俺は、智志君のすべてに、興奮するから。
「やっぱメシ食おうか。保健室……は、無理だな。あからさま過ぎる」
そう言って先に行く智志君。
智志君の思考が読めてさらに嬉しくなる俺は、今後の展開に胸を躍らす。
「――中沢君、いいところがあるよ。それに俺、喉も、渇いてるから、」
「黙れ」
呆れたような表情を浮かばせながら肩を殴ってきた智志くん。
きっと今の俺は、興奮で目が潤んでいるに違いない。
【暴力的な愛でもいい*END】
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