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【少々番外編】雅也
「俺が思うに、もう上下関係は出来ている」
「は?木下なに言ってんの?」
「松村……お前は気付いていないのか?」
「なっ、なにに……?」
「はぁ、これだからリア充は……」
「おいてめぇ」
「おっと……とりあえず!最後はアメとムチ、どっちだろうなァ?──ほい、これ持って!」
――カシャ――
「あっ、ぶな!……って、なんで写真撮ったんだよ!」
「まあまあ。よく撮れたぞ。――そーしん!」
* * *
軽快な音と、卑猥な音が耳に届く。
映っているテレビ画面にはあるドラマがやっていた。その間に入ってきたのがCMというもので、いろいろなジャンルのCMをみていた。
夏休みが終わり、9月の中旬になってもなかなか暑さが離れず苦しい日々を送る。
制服については自由だから夏服はまだまだ手放せなさそうだ。――と、ここでまたもやリズムよく体がノッてしまいそうなほど爽やかでこの場面にはあのBGMが一番だと思えるような音が入ってくる。
「ぅん゙ンッ……はぅんッ」
「王司、ちょっと黙ってろ」
流れるCMに俺は前のめりで釘付け。
「んんんん!」
頭をさらに押したせいか王司の声も一段と大きく呻く。
まぁ、こいつが舐めたいと言ったから舐めさせただけで別に俺から言ったわけじゃ……って、おぉ!
はやくも俺の好きなシリーズもののあのゲームが最新作として発売していた。
車のゲームだったり、協力して物語を進ませたりといろんな種類がある。前回出た時からまだそんなに日は経っていないはずだ。
なのに画面に映る輝かしい発売日の文字はもうすでに過ぎてて、発売しているものになる。
これは四人で戦って進ませるパーティーゲーム……やりてぇなー……。
一人でも面白くて最初出た時はよくやっていたものだ。
「んぁ、ん……はぁッさ、とし……くん……っ」
「おー」
発売している興奮で手の力が弱まったことを良い事に王司は一旦しゃぶっていた俺のモノを口から離した。
やけに苦しそうで咳き込む時だってある。やめればいいのにな。
「けほっ、さとしくん……」
「……きったねぇな」
我慢汁が混ざったよだれが口の端から垂れている。そこは俺が初めて王司の顔を殴った時に出来た傷。
だいぶ治った方だが、近くで見るとやっぱり傷痕は傷痕として残るらしい。
「んぅ、しゃとしくんン、」
そんなよだれをすくって口の中に指を入れると美味そうに舌で這いながら舐めてきた。王司の下半身は、もう見なくともわかっている。
十代の性欲は恐ろしいものだ。連日連夜、ヤっていても問題ないんだろう。
ある日、平三が一週間クタクタになりながら学校行ったり俺や木下といた時があるけど、それって今考えると会長様とヤっていたのかもしれないな。
「はぁはぁ、智志くん、キスしよっ」
他の事を考えていれば足と足の間にいた王司が近付いて、肩に手を置いてきた。
そして返事のない俺にこいつは“OKサイン”だと思って、ちゅ、と何度か軽くぶつかるようなキスをしたあとに、ぬるりと入ってきた舌を絡めてくる。……速攻で嫌な感じがした。
だって今さっきまで俺の出てきた我慢汁をこいつに舐めさせていたわけだし……。さすがに自分の液は、遠慮したいところがある。
「……智志くんとは、ずっとキスしていたいな」
そう言ってスルッと服の中に入れてきた手は熱く、骨ばった手で撫でられるのはいまだにどこか慣れないでいた。
「ん、おーじ、」
「うん」
それは、どんな意味の返事なんだ?
俺が着ているTシャツはもちろん被り物。制服でもない限りそんなボタンのシャツなんて着ないさ。
それなのに普通に脱がせばいいものの、王司はそのままシャツの中に頭を入れて、乳首に口付けをしてくる。
「おい、服が伸びるだろうが」
「さとしくんのチクビ、可愛いっ……」
「はあ……」
果たして、乳首に可愛いもクソもあるのだろうか……溜め息を吐いてここはされるがまま。
襟からチラついて見える王司の頭を見ていると出したままにしていた俺のチンコをゆっくり扱いてきた。それに少しだけ気持ち良さを感じつつ、思い出すのはさっきのCM。
――あのソフト、欲しいなー。
王司とのセックスが終わったらスマホで検索して通販をするか考えよう。……いや、きっと考えるよりも“カゴに入れる”という文字をタップして注文完了表示が出ているにちがいない。
やっぱり、やりたいのは、やりたいじゃないか。
「ん、ん、さとしくんっ、きもひー?」
「舐めながら喋るなッ、ボケ……」
「おひんひんも、大きくなったァ……」
あぁ、そうだな。大きくなったかもしれないな。
ギュッと抱くように王司の背中に腕を回す。
もうこの流れは完全にヤる方向だろ。ゲームの事を考えていたが、そろそろ俺もその気になってもいいだろ?
頭を押し付けてむず痒いこの感覚を、なんとかしてもらおう。乳首なんてよっぽどな事がない限りくすぐったいだけだ。
気分さえ出来上がっちゃえば、話はきっと別だが。
「おーじ、もっとしゃぶってみろよ」
舐めてくるたびに動く頭。
最初は手で撫でながら、ここという時にがっつり胸に押し付ける。
「ん、むぅッ、は、」
それにも興奮している王司に俺は満足。
ニヤけそうな口元をなんとかしていたら――隣にあったスマホの画面が光った。
「ん……」
王司はもう乳首に夢中。完璧な王子様でもこの姿はあまりにも情けないな。
そんな姿を見ているのもいいが、ロック画面で一部表示されている文字が木下の名前。
あいつからの連絡なんてあまりないものだ。
事前に連絡するような事を言って、連絡が来るというのはあるが、急なものは……今までにあったか?
だからか、少し気になる。
「はぅ、ん、」
ピチャピチャとわざとよだれを多く出しながら立てる音。
舐められ過ぎてどこか擦れて痛くなるかもしれない、と思いながら。
けど、こんなにも夢中なら今スマホを覗いてもなにも言われないだろう、とも思った。
少し手を伸ばし、スマホを取る。その時、動いてしまったがそれほど王司は気にしなかったみたいでなにも言わない。
感じてくれた、とか思って嬉しがっていたらそれはそれでまた笑えるが。
もともとマナーモードでバイブオフにしていた俺のスマホはロック画面解除をしても音なんて鳴らないまま開ける事が出来る。
「智志くん、ここ真っ赤」
「んっ……」
爪で軽く、カリッと掻いてきた王司の横腹につい蹴りを入れてしまったが、ビクッと小さく震えた体。
効果は良かったみたいで、まぁいい。そのまま、また続行しようと王司はまた舐める。
俺は王司を気にせずスマホを操作。メールか……。
件名にはなにもなくて、本文に『パーティーなら俺も好きだから買った。やりたいなら来いよ』という文字。
なんだこの上から目線は……と思ったがさらに指を滑らせて操作させると下の方に[ 添付 ]という文字があった。
なんだ?と首を傾げてタップ。
表示された画面は、ソファーに座る後ろ姿の平三と木下のものであろう手がドアップ。
その手の人差し指は、どこかを指すもの。
「んっ、チュッ……さとしくぅん……」
「……んー?」
よくよく見てみれば人差し指を向けている先が平三だ。次に平三の後ろ姿に、親指と人差し指を使って拡大してみた。
そして――。
「ふぅ……」
「あッ……!?」
よだれのせいで息を吹きかけられた時、冷たさを感じた。
そんでもって平三が、俺の欲しがっていたあのゲームソフトを持っているとわかったせいで体がビクついてしまったのだ。
「智志くん?」
これにはさすがの王司でも気付いたみたいで。……いや、少しは感じたよ。
平三が持ってるこのソフトには敵わないけどな。
「智志君?なに見てるの?どこも見ないでくれ――「いーから、咥えてろ」
スポッとシャツの中に入っていた頭を出してはつまらなそうな顔で言ってきた王司の頭をもう一度掴んで、まだ出していた俺のモノに無理矢理、咥えさせた。
急なことに追い付かないのか本気で苦しそうな声を一瞬出すものの、すでにその気に出来上がってる王司はちゃんとしゃぶり始める。
あーあ、やっぱりシャツが伸びやがった……もう私服として着るのはやめよう。
部屋着にしよう。部屋着にチェンジだ。
「んっ……はぁッ、んん」
「……ッ」
無理矢理咥えさせた、とはいえ、あとはなにもしていない。
いつもみたいに王司が希望する押し付けはしていないし、喉奥まで行かせるような腰振りもしていない。
普通のフェラチオをしているだけだ。
そのせいか、感じるものがある。
「お前の舌はっ、上手いなぁ……」
「ん、ふっ、きもちぃ?」
窺うように目を合わせてきた王司。俺は頷きながら目元を覆うように頭を撫でた。
そんな王司がなんだか愛しく思えて誤魔化すように笑みを浮かべるなか、隅っこのどこかでうずうずしている。――超やりてぇ!……と。
「なんかヤる度に良くなってるけど、お前だれかと練習してんの?」
「ううん……っ、んなわけない、俺は智志くんだけで……」
「へー……ッ」
やりたいやつ?
は? ゲームだよ!
うずうずしているのはケツの穴じゃねぇよ!
やりたいものは、やりたい。ヤりたければ、ヤる。どっちもどっちだ。
優先すべきものはわかっている。恋人である、王司だ。ゲームなんかと比べられて可哀想にな?
でもやっぱり、ゲームもやりたい。
だってすげぇ楽しそうだったんだ、流れていたCMが。
出演してた芸能人のやり方もすっごい楽しそうで、笑ってて、爆笑してて、たまに慌てたり少し暴言を吐きながらライバル視するような、様々な表情が15秒で見れた。
見て、感じ取ったのが、面白そう。
はやくやりたくてしょうがない。だけど今の俺には持っていない。
だから今は我慢して、王司と――なんて思っていたけど、案外すぐ近くにあるから。そのゲームソフトがすげぇ近くにあるから!
しかも木下のメール文から見てもわかるように、後ろ姿の平三はわりとやる気満々な写真だった。
あいつ等とあのゲームで遊べるなら正直、今はゲームを優先させたいのが俺の気持ちだ。
「んッ、おーじ……っ」
「んっんッ、」
気持ちの整理をしているのも知らずに王司はイかせる気で扱きながら舐めてくる。
実際にイきそうだし、つーかこれイくな……。でもイったらイったで最後までやらないといけない空気になりそうだしなぁ……俺の気持ちは一気にゲームへ偏っているから、こういった考えもする。
許せよ。
「はッ、ん……!王司っ、待てッ、あ――!」
びゅっ、と出た白い液を余すことなく王司の口のナカ。
「んー、智志くんの精子ってホントいいよねぇ……んぐ、」
ごく、と音が聞こえた。
この流れは、次に王司が覆ってくるばんか……。
「さとし、く――」
「待て」
ソファーに座る俺の足下にいた王司が同じくソファーに座ろうと立ち上がる瞬間、俺は内心慌てながら外見では冷静に手を肩へ置き、そのまま座らせる。
ここで立たれたらゲームが出来ねぇよ……。
悪いが俺はゲームを優先する。
王司には中断させるか、ゲームが終わるまで待っててもらうか。
このどっちかにしようじゃないか。……聞きわけ出来なそうだなぁ。
こういうので素直に『わかった』なんて返事、聞いた事ねぇもん。
「智志君……?」
俺のモノをしまう姿に首を傾げる王司。眉間にシワを寄せて、興奮で目に涙を溜めた姿はいつも通り。
本当に、悪いな。
スッ、と立ち上がる俺。
「え、智志君、どこに行くの?」
「あぁ、ちょっと」
縋るように手を繋いできた王司になるべく優しく言い放つ。手もそっと離して、自室へ向かった。
王司のせいで伸びたシャツから新しいシャツに着替えるためだ。
平三や木下に会うだけでも恥ずかしい姿になったお気に入りのシャツ。
別にいいんだけどな?
「さとしくーん」
自室にまでついてくる王司。
勃起したまま歩くなんてギャグみたいな光景だが、これにはもう慣れた。
「あんな雰囲気のなか止めて悪いな」
「やめて……?」
わかっているのか、いないのか……いや、察しはついてるはずだ。その証拠にだんだんと王司の表情の雲行きが怪しくなってきている。
「少しだけ、用事が出来た」
「えっ」
「本当に少しだ。すぐに戻ってくる」
新しいシャツを手に取り、着替える。
王司に背中を向けていたからどんな表情をしていたのかは知らない。――知らないが、
「や、やだよ。智志君もうちょっと空気読もうよ、こんなタイミングで用事ってなにさ」
言い方で判断できる。
こいつは泣きそうな面で焦っている。そんな顔。
「この間だって戻るとか言ってなかなか戻らなかっただろ。今回もそうなったら俺やだよ?」
「あー……」
確かに。
いつだか平三が俺の好きなゲームソフトをやろうと誘われてコロッとそっちに行った日があったなぁ……こいつよく覚えてたな。
まぁでもそれだけこいつが根に持ってる、と思うべきか……。あー、んー、まあ、でも……ぶっちゃけ今回もそうなりそうだけどな。
いや、だってやっぱゲームは好きだし、やりたい。
「……王司」
「……」
背を向けていた体を王司とちゃんと向き合うように振り返る。見なくても当たった泣きそうな面は今だけスルーしよう。
「ベッドの横に座ってくれ」
ある例え話をしよう。
きっとこの話をすれば王司も地味に納得してくれるはずだ。
俺はベッドの上、王司はその足元に正座。不自然に見つめ合う俺達。
これからの展開を読めているのか、嫌々オーラをどうどうと放っている王司。――まぁこんなこいつも嫌いではない。
「お前って今すげぇヤりたいだろ?」
「……智志君と一緒にいれれば、エッチとかしなくても……」
指先をもじもじする王司。女々しいはずなのにそうとも感じさせず、体格のせいか爽やかさがどこか残っている。
が、それだと俺の例え話が出来ないぞ……。
「へー。ずっと勃起してるコレを見て俺はついヤりたいのかと思ってたわ。なら用事に行っても問題ないな?」
「アっ……ちが、」
グッと勃ってる王司のモノを足で踏みつける。
ぐりぐり、ぐりぐり、と優しくではあるが王司からしたら良い刺激みたいで昂りがやまない様子。
あ……なに俺はさらに興奮させようとしてんだ、バカ。
「違う?なにがだ?ヤらなくてもいいなら、少しだけ時間をくれよ。そうだなぁ、少なくとも二時間」
「ンん、そ、んなに……?やだぁ……ぁ」
むしろ二時間以上待たせたらごめん。ここは素直に謝る。
でも安心しろよ、ちゃんとアラーム設定しておくから。
今だけマナーモードは解除してやるから。
解除しておくから、頼むからゲームをやらせてくれ……!
「王司、安心しろ。戻ったらココを可愛がってやるし、別にヤらなくてもいいなら抱き締めてやってもいい」
俺は自分の欲望 をなるべく表に出ないように王司のモノを踏みつけていた足を離して、考えに考えている目元にキスを落とす。
「おーじ」
「……っ」
「我慢、出来るか?」
もう一度、耳元で囁くように言ってやれば、とうとう涙を流してすすり声をあげた。
これでもダメなら切り札を使おうか……。
「んッふぅ……さとしくん、ずるいっ」
勃たせるモノを手で押さえ込みながら、もう片方の手で涙を拭う王司。
最後の最後で切り札を出そうとした内容は“俺の部屋でオナっててもいい”という妥協もの。
「ずるいって……おい。泣くなよ、王司――待てるか?」
けど、そんなのは言わなくても大丈夫そうだ。
「ん……」
頷いた王司は完全に顔を俯き、一滴落ちる涙が俺の手に乗った。
「待つのはどこでもいいぞ。ここでも、リビングでも自室でも」
泣く王司の頭をポンポンと弾ませながらベッドから立ち上がり、バレないように苦笑する俺。でも今回だけだ。
木下の連絡するタイミングが悪かっただけで、きっと今後はないはずだから。
「さとしく、ん……はやく戻ってきてね」
顔は上げず、涙を拭っていた方の手で俺の手を握ってきた。
濡れてるその手におもわず舐めてあげようかと思ったが、やめておこう。
でも、予想以上に言うことを聞いてくれたから握られた手をちゃんと握り返して、優しく叩いていた頭は撫でておく。
それから今後は、こう呼ぼうと決意した。
「いい子だな、雅也」
「……んんッ!さとしくんっ」
まぁ、いいだろ、こんな感じで。
「じゃあな、雅也。おとなしくしてろよ」
この部屋でオナっても良いという考えをしていたが、今は“おとなしくしてろよ”という言葉の中に『この部屋でオナるなよ』という思いが届いたら、嬉しいな。
繋いでいた手も、撫でていた手も、全部離して俺はスマホ片手に部屋から出る。
「おう、平三?今そっちに行くから木下にも伝えといてくれ」
部屋を出て速攻で連絡。
たまたま着信履歴に平三の名前が一番上に表示されてたから木下ではなく平三に電話を掛けたが、その後ろで『ムチかぁ、王司もよく耐えたなぁ』と面白がる木下の声が聞こえた。
なんの事かさっぱりわからないが、雅也とか呼びにくいなぁ。慣れの問題かもしれないが。
まあでも、反応が面白いから、下の名前で呼ぶけど。
【雅也*END】
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