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「逃げねぇけど、勘弁しろって」
――勘違いしないでほしいんだが、逃げる気がなくてもやっぱり逃げたくなる時がある。全てを受け入れたうえで逃げたい、と。
とある休日、俺はだらしなくソファーに寝そべっていた。
やる事がない。そもそも動きたくない。ゲームも全クリして今はリピートする気にもなれない。なぜなら昨日やったからだ……かといって菓子作りって気分でもない。
じゃあ、ボーッとしてるしかない。
その結果、真っ白な天井と睨めっこ状態が一時間続いてるんだが、これが結構いい感じでクセになりそうだ。
俺やっぱ静かな方が合ってるんだな。
寮生活で同室者がいて当たり前、しょうがない、なんて割り切っていたが静かな日常が今戻って来て、懐かしむ。
正直、一人部屋の木下が羨ましい。でも俺にはそんな成績を取れる頭がない。だから羨んでも意味がないから束の間の静寂を楽しもうじゃないか。存分に。――とか、幸せを感じていたんだが……。
「智志くん、俺の舌噛んでくれないか?」
「……」
ひょっこり出てきたクソ王子様のせいで俺の時間が終わりを告げる。
しかも舌を噛めってなんだ……想像しただけでも痛い。
ああ、それが奴にとってイイコトなんだっけ。
「いやだ」
「俺さっき思ったんだ。智志君が部屋から出てきて無のままソファーに倒れた時、その全体重で俺の身体に倒れてきてくれたらまずどこが痛くなるのかな、って。胃?鳩尾?胸?太もも?それとも、ココ?」
そう言って王司がそれぞれに指差しをしながら辿り着いた〝ココ〟というのは、股間。
というかこいつ、部屋にいないと思ってたのに実は最初からいましたパターンかよ。生徒会かなにかでどこか行ってたんじゃないのか……純粋に怖いな。
「で、なんで舌を噛む発想になったんだ。理由ぐらいなら聞いてやるよ、雅也くん」
「ありがとう、智志君。やっぱ倒れてくれてもどこが最初に痛むのかわからないだろ?もしかしたら、その衝撃で自分の舌を噛むかもしれない。だったら最初から智志君に舌を噛んでもらった方がいいような気がして――って、智志君?どこ行くのー?」
ちょっと意味がわからな過ぎて無理。なに考えてるのかわっかんねー。頭良い奴は基本的におかしいわ。
そうだ、平三に連絡して会おう。会長様がいたら木下に連絡しよう。……んー、飯塚先輩いたらどうしよう。
はあ……俺ってほんと……。
「さとしくん!舌!」
「うるせーな!噛まねぇよ!」
廊下に繋がるドアを開けた瞬間、叫ぶ王司に泣きたくなった。真面目にドMというのが理解出来なくて苦しむ。
それでもかっけぇ顔から可愛い顔に変わる王司を見たい気持ちもあるから、もしかしたらこの先その願いを叶えちゃう日が来るのかもしれないが……その時はその時だな。
ウジウジしててもしかたがない。
しかし、今は逃げるぜ。
受け止めきれん、こんなのは!
【少々番外編*END】
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