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第3話

「そんな事はないよ……。ただ……」 「……ただ?」 「気持ち……良すぎて、おかしくなりそうなんだ」  アンバーは堪えるように眉根を寄せて、半身を握り込んでいるアンジュの手を引き剥がした。 「何言ってんだ? おかしいのはお互い様だろ?」  それはアンジュも同じだった。何度達しても、何度熱を爆ぜても、身体の火照りが収まらない。理性なんてとっくに吹き飛んでいる。  なのに、アンジュが手を伸ばしても、アンバーは避けるように距離をとる。 「これ以上は駄目だよアンジュ。このままじゃ理性が効かなくなって、君を壊してしまう」 「なんで!」  詰め寄るアンジュに、アンバーは泣きそうな顔をして微笑んだ。 「僕は、ウェアウルフ(人狼)なんだ」 「分かってるよ、そんな事」  このモーテルの部屋に、月の光から逃げるように転がり込んだ時も、アンバーは自分の姿をアンジュに見せることを嫌がっていた。  だけど、それはもう吹っ切れたと思っていたのに。 「やっぱり……オレの身体じゃ物足りなくて、イけないんじゃないの?」 「違う! そんなんじゃない」  悲痛な声で、そう叫び、アンバーは困ったようにアンジュから目をそらした。 「獣はどんな性であっても、特定の時期に発情するのは知ってるよね? 勿論、ヒートにあてられて発情する時もあるけれど、僕たちウェアウルフは満月の光を浴びると必ず発情するんだ。それは相手がΩでなくても性欲が抑えられなくなる」  アンバーは、そこで一旦言葉を区切り、辛そうに息を吐いた。 「満月の夜は、子孫を残すという本能だけでセックスをする生き物なんだ」 「アンバー!」  目をそらしたまま、苦々しく吐き捨てるように言ったアンバーの逞しい身体に、アンジュは思い切り抱きついた。 「いいよ、それでも。お前の子供ならオレは産みたい」 「駄目だよ。それじゃ……父さんや兄さん達と同じになってしまう……」  身体を引き剥がそうとするアンバーの力に抗うように、アンジュは夢中でしがみつく。 「……同じじゃないだろ? オレはお前のことを好きだと言っただろ? それともアンバーはオレのこと好きじゃないのか?」 「……アンジュ……僕もアンジュが好きだよ。初めて逢ったあの時から……」  身体を引き剥がそうとする力が弛み、恐る恐る背中に回ったアンバーの手の温もりに、アンジュはホッと安堵の息を吐いた。  なのに、アンバーの口から零れた次の言葉に、アンジュは自分の耳を疑った。 「だけど……君と番にはなれない。……なったらいけないんだ」

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