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第14話
アンジュは硬くなり始めている半身に、そっと手を伸ばす。
「……ん」
自分で触れただけなのに、思わず漏らしてしまう声に驚いて、アンジュは唇を強く噛んだ。
背中にぴったりとくっついて眠っている優しい男を起こさないように、ゆるゆると自身を慰める。
──この姿になった僕は、もう僕じゃなくなってしまう。
そう言って、我を忘れてしまう事を恐れていたアンバーよりも、今は自分の方が、よっぽど獣だと思う。
昨夜の光景を、快楽を、思い出しただけで、欲望に体内が熱くなる。
それだけじゃない。背中にアンバーの体温があるだけで、アンバーの匂いに包まれているだけで、胸が激しく鼓動を打ち、息が上がる。
昨夜のヒート時よりも、随分とマシではあるが、こんな状態が一週間も続くのだろうか。
ならば、アンバーが起きてしまう前に自分で処理しておきたかった。
アンバーの発情は満月の夜だけだ。一週間もずっと、こんな浅ましい身体に付き合わせる訳にはいかない。
昨夜とは違って、今ならアンバーに頼らなくても、何とかなるんじゃないか……と、アンジュは、そう考えていた。
聞こえてくる規則正しい寝息が乱れないように、注意をはらいながら自身を慰める手を速める。
クチュクチュと、最初は密やかに鳴っていた水音が、やけに大きく聞こえるようになると、またゆるゆると、ゆっくりと扱く。
しかし、これでは、いつまで経ってもイけそうにない。
それどころか、昨夜長い時間、狼の雄を咥え込んでいた後孔が熱を持ち、物欲しげにヒクつく。
もう前だけの刺激では、到底足りなかった。
やはり、何とかして、この逞しい腕の中から抜け出して、バスルームに籠るしかない。
アンジュは、小さく息を吐き、アンバーの腕から逃れようと、モゾモゾと少しずつ身体を動かしてみた。
だけどその瞬間、それまで規則正しく聞こえていた寝息のリズムが乱れる。
──いや、違う。
寝息と言うよりも、それは、笑いを堪えて鼻から大きく息を吹き出したような音だ。
「起きてる?」
アンジュは、前を向いたまま何もなかったかのように、至って普通に尋ねた。
「……うん……」
笑いを含んだ声音で、アンバーが背後で返事をする。
「いつから起きてた?」
「……うん」
答えにならない返事が返ってきたその瞬間、文句を言おうとしたアンジュの口から、力の抜けた声が零れた。
「……ひ、ぁ……」
さっきから疼いていた後孔の淵にアンバーの指先がなぞるように触れてきたのだ。
「一人て気持ちよくなろうとするなんて、エロいね」
「や……、やめッ……」
力なく逃げようとするアンジュの身体を引き寄せて、アンバーはしっかりと自分の腕の中に閉じ込め直す。
「本当にやめてほしいの?」
「……ば、ばか……っ、あぁッ」
ツプッと、アンバーが中指を突き立てて、一気に根元まで挿し入れてくる。
一晩中、散々可愛がられたそこは、指一本くらいは容易く呑み込んでしまう。
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