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第16話

 それは、それほど大きな音ではなくて、不規則に間隔を開けて聞こえてくる。  アンバーの懐の中で身を捩り、後ろを見ようとすれば、音が止む。 「……アンジュが、可愛い」  嬉しそうな声で、そんな恥ずかしい台詞を言いながら、昨夜噛み跡を付けたうなじをガシガシと甘く齧る。  そして、また聞こえてくる。  ──パタパタ……パタパタバタ…… 「おい……」  アンジュは手を伸ばし、アンバーの髪を掴んで引っ張ってやる。 「齧るなっ。また血が出るだろ」 「ごめん……痛かった?」  ちょっと強い口調で言えば、途端にシュンとした声になる。 「……いいから……」  ──早く……と、強請るように腰を後ろのアンバーに擦り付けるように突き出すと、尻臀に熱くて硬いモノが当たった。  ……パタパタバタ……と、また微かに音が立つ。  アンジュは、逞しい腕の中で、身体をゆっくりと反転させて、アンバーと横向きで向き合う形になった。  中に挿っていた指が、その拍子に、スルリと抜けていく。  その途端、音が止む。  アンジュは、アンバーを見上げた。  ずっと、後ろから抱かれていたから、顔を見るのは随分久しぶりのように思える。  狼の顔じゃなくて、人間の顔だ。  その整った顔立ちは、店のキャスト達に人気だった、兄のイアンにだって負けてない。  でも、兄弟だけど、イアンとは正反対のタイプだと思う。  どこか人懐っこく感じるこの表情。  艶のある漆黒の髪。  見つめられると、心奪われる琥珀色の瞳。  年下のくせに、甘い言葉を囁く唇。  アンジュが好きになった、愛しい男の顔だ。  ──キスしたいな……。  そう思ったのが通じたのか、見つめ合いながら唇を重ね、啄むようなキスをくれる。  額をくっつけ合って、お互いの舌を伸ばして、空中で絡め合う。  そのうち、アンバーが焦れたように、ぎゅっと唇を押し付けて、熱を纏った舌が咥内に侵入してきた。 「……ん……」  視界には、目を閉じたアンバーの顔が広がっていて、そしてその後ろで、パタパタ……と、大きく動く影が見える。  舌を甘く絡め取られ、咥内で縺れ合い始める熱。 「……っ……ふ、ッ……ん」  上顎を舌先で、ツゥーと、なぞられて、力が抜ける。  でも、視界の端っこで揺れる物が気になってしょうがない。  モフモフが、ふわふわ……と揺れて、パタ、パタ……とシーツを叩いてる。  アンジュは深くなるキスに応えながら、そのモフモフに、そっと手を伸ばした。

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