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第19話
「あ……」
濡れた感触が、脚を伝い落ちていく。
「大丈夫? 暫くは身体を休めた方がいいよ。ごめん、僕、加減ができなくて……」
「お前のせいじゃないってば……」
重い下腹を掌で触れてみると、腹いっぱいに食べた後みたいに、ふっくらと膨らんでいるのが分かる。
Ω性の身体が持つ子宮の中に、アンバーの種がたっぷりと流れ込んでいる。
そこに入りきらなくて、溢れてくる。
でも、その残滓も、時間と共に腸壁の粘膜に吸収されていくだろう。
そう考えると、アンバーと溶け合って一体化できるような気がして、ちょっと嬉しい。
溢れて、外に出ていってしまうのが、勿体ないような気がしてくる。
「アンジュ、お願いだから横になってて。適当に買って、すぐに戻ってくるから。食べたら一緒にシャワーしよう」
「一緒に?」
部屋のバスルームは、かなり狭い。男二人で入るには無理だろうと思う。
それに……。
アンジュは、薄い寝具を手繰り寄せ、身体に巻き付けた。今更ながら、明るい場所で見られるのが恥ずかしい。
「何? もしかして……恥ずかしいの?」
「べ、別に……」
散々抱き合って、アンジュが自分でも知らないところも、いっぱい触られたし、見られたというのに。
だけど……、ヒートが少し収まっているからだろうか……今は恥ずかしい。
この部屋に駆け込んだ時は、初めての発情期で、何が何だか分からなくて。
身体中の血が沸騰したみたいに熱くて、暑くて。
全身が心臓になったみたいに、脈打って。
身体の奥が、今まで知らなかった場所が──
疼いて、欲しくて、堪らなくて。
この疼きを止めてほしくて。助けてほしくて。
早くアンバーが欲しくて。
気がついたら、着ているものを、全部自分で脱ぎ捨てていた。
床に散らばっている服が視界に入り、アンジュは余計に顔が熱くなる。
「分かったから、早く行けよ。ちゃんとおとなしく待ってるから!」
赤く火照った顔なんか、アンバーには見せたくなくて、ごろんとベッドに横になり、頭から布団を被った。
クスッと笑う声が聞こえて、薄い布団の上から、頭に唇が押し当てられる。
「じゃあ行ってくるね」
「ああ。早く行け」
安普請のモーテルの床は、アンバーが歩くと、ギシギシと鳴る。
ドアへと向かう後ろ姿を布団の隙間から覗き見れば、いきなり振り向いたアンバーと目が合って、アンジュは慌てて、また布団を被り直した。
「行ってきます」
笑いを含んだ声がした後に、ドアが開いて閉まる音と、しっかりと鍵のかかる音が聞こえてくる。それを確認してから、アンジュは布団の中で小さな声で呟いた。
「なるべく早く、帰ってこいよ……」
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