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第21話

 薄ら笑う男の後ろにも、あと二人、知らない男の顔が見えた。  咄嗟に閉めようとしたけれど、遅かった。男は、ドアに足を挟み、アンジュの身体を押し込みながら、強引に部屋に入ってくる。  身体に力の入らないアンジュは、抵抗らしい抵抗もできないまま、後ろによろめいて床に尻餅をついてしまう。  続いて他の二人も入ってきて、部屋のドアが乱暴に閉められた。 「なんだよ、つれないじゃないか。俺のこと忘れたの?」 「お前なんか知らない! 出てけよ!」  男を見上げ、キッと睨みつける。  しかし、男の視線はアンジュの目を無視して、下へとさがり、その表情に下卑た笑いを浮かばせた。 「へぇ、いい格好だな。散々遊んだ後ってわけか?」  言われて、アンジュは視線を落とす。  尻餅をついて、脚を開き、 袖を通しただけのシャツは、前が肌蹴ている。  情事の余韻で紅く熟れた乳首も、下着を穿いていない下半身も露わにして、男達に晒している状態だ。  慌ててシャツの前を合わせて、膝を閉じたアンジュの目の前に、男がしゃがみ込んで、顔を近づけてくる。 「なぁ? 本当に覚えてないの? 俺のこと」 「知らねぇよ!」  睨みつけながらそう叫んだアンジュに、男は声を上げて笑う。 「あはは、相変わらずだな。目上の人には敬語使えって言っただろ?」 「…………」  そう言われて、アンジュは漸くぼんやりと思い出した。  ダウンタウンをうろついていて、ぶつかった男だ。  イーストシストを牛耳るマフィア、マンテーニャ・ファミリーの構成員。 「なんでお前が、ここに来るんだよ」  あの時は、この男に『仕事を紹介してやる』と言われて、ついて行きそうになったところを、アンバーに止められたのだ。  あの時、アンバーが止めてくれなかったら、自分は今ここには居なかっただろう……と、アンジュは思う。 「やっと思い出したようだな」 「思い出しても、お前に用はない。早く出てけよ」 「そっちにはなくても、こっちにはあんの! お前には、これから一緒に事務所に来てもらうことになってんだ」 「は? なんでそんな所に行かなきゃいけないんだよ」 「お前、イアンの番候補だったんだろ? でも満月の夜に番にはなれなかった」 「…………」 「あの店のΩはな、ティカアニ家の跡取りの番になってαの子供を産むか、産めない者は、うちのファミリーで引き取って、競売にかける事になってんだよ」  そう。それがティカアニ家の裏の顔だった。  イーストシストに住み着いた100年も前から、深い関わりを持つマンテーニャに言われるがまま、店のキャスト達を流していた。  その見返りに法律で禁止されている発情促進剤を手にいれていたのだ。 「……そんなのオレには関係ない。オレはもうアンバー……アーロンの番になったんだ。だから……っ」  言いかけた言葉は、途中で途切れた。  男の手がうなじを掴み、引き寄せられて、湿った呼気が肌にかかる。 「へぇ、だから発情期なのにあまり匂わないのか……でも、狼の鼻は、抑えられたΩのフェロモンでも嗅ぎ分けられるんだぜ」  ──こいつも狼?  そう思った瞬間、男が鼻先を首筋に寄せて、アンジュの匂いを嗅ぐ。 「いい匂いしてるぞ」 「──さわる、なっ……」  全身に悪寒が走り、鳥肌が立つ。 「番ねぇ。じゃあ今ここで、俺がお前を犯したら、もし子供が生まれてきても、誰が父親なのか分からねーよな」  耳元にそう囁かれた途端、男の舌がアンジュのうなじに這わされた。

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