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第22話

「──やっ、やめろっ」  嫌悪で身体が震えた。噛み締めた奥歯が、ガタガタと鳴る。  後ろから回された腕に身体を拘束されて動けない。背中には男の体温が張り付いている。 「やめろ!」  叫んでも、もがいても、男はうなじを舐め続けた。 「いや、だっ!」  そこは、アンバーが永遠の印を付けてくれた大切な場所なのに……。その噛み跡を、男の舌先がなぞるように動く。  嫌なのに、思うように動けない身体がもどかしい。それでも渾身の力を振り絞って抗った。  満月の夜から、ずっとアンバーに愛され続けた身体が悲鳴を上げ、全身の骨が砕けそうな音を立てる。  腹筋に力を入れると、残滓が後孔から溢れ落ちて床を濡らした。 「足腰たたなくなるまでやってたんだろ? いいから、おとなしくしてろよ」 「あっ」  ひょいっと身体を持ち上げられて、男の肩に担がれて、それでもアンジュは力なく手足をバタつかせた。 「い、イヤだ、放せ!」  男は軽々と、アンジュを運び、その身体をベッドに放り投げた。  アンジュは、硬いスプリングに身体を跳ねさせながらも必死に枕を掴み、ベッドに上がって来る男に投げつける。  しかし、力が入らず枕は男まで届かない。 「近寄んなっ」  今のアンジュに抵抗できる術は声だけだった。  すぐに男に押し倒されて、ベッドの上で組み敷かれてしまう。  他の男二人は、ドアの前で立ったまま動かない。視線だけがこちらを見ていた。 「いやだっ、アンバー! アンバぁ……」  アンバーより一回り以上も大きな体躯に押さえつけられながら、アンジュは声が枯れるまで叫んだ。  早く帰ってこいと言っただろ? 何してんだ! どこにいるんだ! 「アンバーって? アーロンのことか? なら、あいつは来れないよ。今頃ティカアニ家の追っ手に捕まってる。誰も助けになんか来ねぇよ」  ──え?  あの時、あの満月の夜、部屋から出て行く二人を、イアンは追って来たりしなかったのに。 「……なんで」 「ふん、あんな雑種でもティカアニ家の血を継いだαだからな。子孫を増やす為に必要なんだろ。そのうち、由緒正しい白い獣毛のメスのαとでも、番わせるつもりなんじゃないの? イアンには、まだ子供がいないからな」 「そんな……」 「残念だったな。お坊ちゃんの家出はここで終わりだ。本気で逃げる気なら、クレジットカードなんか使っちゃ駄目だろ。カードを使った店は、ティカアニの親父が知らせてきたんだ」  ──クレジットカード?  そう言えば……と、ここに来る少し前にガソリンスタンドに寄った事を思い出して、アンジュは小さく舌打ちをした。 「あとは狼の嗅覚があれば、ここを見つけるのは簡単だった。そしてお前らが離れるチャンスを窺ってたのさ」  それで、ティカアニ家の者達はアンバーの後を追い、この男達は、マンテーニャの商品であるアンジュを奪い返す為にこの部屋に押し入ってきた。

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