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第25話
────嫌だ。
限界まで身体を開かされ、アンバーの形に馴染んだその場所を、男の形に作り変えられる。
それを受け入れる自分の姿を想像するだけで、また吐き気が込み上げた。
──絶対に嫌だ。死んだ方がマシだ。
どんなに抵抗しても、男の力には敵わないだろう。
力尽くで捩じ伏せられて、もがく身体を容易く制圧し、蹂躙されるだろう。
だけど、たとえ薬の所為であっても、男の身体で快楽を得るのは嫌だ。
そんな事になるくらいなら、死んだっていい。殺されるまで抗ってやる。
「────や、めろ! い、やだ!」
自分の意思を掠れた声にのせ、力の限り、闇雲に手足を動かした。
「────っ、危な……!」
男が叫び、次の瞬間、頬に平手が飛んできた。
注射針が既に刺さっていたかどうかは、自分では分からない。
だけど、アンジュの手に当たって宙へ舞い上がった注射器が、床へと落ちてパリンと小さな音を立てる。
その音を遠くに聞きながら、押さえつけてくる男の身体の下で、アンジュはできる限りの抵抗をした。
「──この野郎!」
男が荒々しい声を上げ、アンジュの細い手首を掴む。
その手を振り解き、自由になった手で拳をつくり、男の鳩尾を殴りつけ、覆い被さってくる顔を思い切り引っ掻いてやる。
だけど次の瞬間には、さっきよりも強い男の平手がアンジュを襲う。
頬を往復で何度も打たれ、最も強い最後の一発に身体ごと吹き飛ばされ、アンジュは敢え無くベットに沈む。
横向きに倒れ、頬を押さえ、顔を乱れたシーツの波に埋めたまま、とうとうアンジュは動かなくなった。
「おい、まだ車にあるだろ? あるだけ持ってこい」
すぐ横で衣擦れの音をさせながら、男が他の二人に命令している。
「いいんですか? こんな勝手に……」
「いいんだよ。もう番っちまってんだ、どうせ高値では売れないだろ。閉じ込めて薬漬けにして、客を取らせるしか使い道なんかねぇよ」
「……でも……」
「いいから言う通りにしろ! 注射器も予備あっただろ?」
「…………」
「なんだよ、分かってるって。俺が味見した後に、お前らにも愉しませてやるから、早くしろ」
「は、はい」
二人が慌てて部屋を出て行き、残った男は喉の奥を愉しそうに鳴らす。
──その頃には、もう壊れちまってるかもしれないけどな……と、嗤っている。
ベッドが揺れて、男の気配が近づいてくる。
もう、逃げられない。
もう指一本も動かせない。
疲弊しきった身体を仰向きにさせ、男が腰の辺りを跨いで馬乗りになる。
何も着けていない下肢に、獣の毛先を感じて、アンジュは恐る恐る男を見上げ、驚きの表情を浮かべた。
「あんまり暴れんなよ。興奮するじゃねぇか」
「……ウェア……ウルフ……」
今までの会話から、そうなのでは……と思ってはいたが、その風貌に驚きを隠せなかった。
アンバーよりも、イアンよりも大きくて鍛えられた体躯。
長い口吻と三角の耳。
そしてこの狼は、イアンに似た青灰の瞳と、身体中を覆う白い毛皮を持っていた。
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