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第26話
でも、イアンのそれとは違う。
イアンの獣毛は、もっと目の覚めるような、光輝く純白だった。
彼の灰青の瞳に見つめられると、身が竦み動けなくなった。
恐ろしい程に美しく、その姿は、どこか凛としていて、まるで神の化身のように思えた。
同じ白いウェアウルフでも、この男は、イアンのそれとは、まるで違う。
「ウェアウルフなのに、なんでマフィアなんかやってんだ」
アンジュが問うと、男は「ふん」と、鼻で笑う。
「なんでって? それは俺がトレイター (traitor)だからさ」
遠い昔に、街に下りてきた狼が人を襲い、それがきっかけで大規模な狼狩りが行われ、ウェアウルフ達は絶滅の危機に陥った。
イーストシストでヒトに紛れて暮らしている数少ないウェアウルフの中でも、白い獣毛の血統を受け継いでいるのは、イアンとその父親の他、数人しかいない。
この男は、その数少ない白狼の一人だった。それなのに、群れを離れてマフィアの世界にいる。
「ウェアウルフ族の長は、白狼が継ぐと昔から決まっている。俺の家だってその権利がある。もうずっと長い間ティカアニ家が継いできてるけどな」
忌々しそうに、男は話す。
数年前までは、男もティカアニ家が運営する店で仕事をしていた。
「だけど、ティカアニの親父はな、俺のことを素行が悪いとか文句を付けて、追い出しやがったんだ」
急に仕事を失い、身体の弱い母親を抱えて路頭に迷いそうだった時、男を拾ってくれたのがマンテーニャファミリーのドンだったという。
「いつかきっと、あの親父を見返してやる。マンテーニャでのし上がり、俺の前にあの一家をひれ伏せさせてやる」
────だから、人は俺のことをトレイターって呼ぶのさ。
そう言葉を続けながら、男はアンジュのシャツを肩からずらし、後ろ手に縛り上げた。
「…………っ」
うつ伏せに押さえつけられて、腰を高く引き上げられる。
「なぁ、お前さ、俺と番にならないか。それなら優しくしてやってもいい……」
そう言って、後から顎を捕り、顔を覗き込んでくる男の顔に、アンジュは思い切りつばを吐きかけた。
「俺は、アンバーと番ったんだ。お前の好きになんかさせるもんか!」
「ちっ、ホント可愛げのないガキ」
憎々し気に言葉を放ち、男は鋭い爪をうなじに突きつけた。
「なぁ、番関係は解消できるってことを、お前は知ってるか?」
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