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第27話

「……知ってる」    ────番の関係は、どちらかが死ぬまで解消されない。  そんな事は、誰でも知っている。 「人間のΩは、こうして番の相手以外に触られただけで、拒絶反応を起しちまうんだよな」  男が背中に伸し掛かり、息を荒げた獣の呼気が肌に触れる。開いた口吻の隙間から滴り落ちた唾液に濡れる感触が堪らなく不快で、アンジュは首を竦め身を強張らせた。 「……やっ、やめろ……」 「身体が受け付けなくなるんだよな。だけど、ウェアウルフのαは、他のやつとでも交尾はできるんだ。ただ、お前以外のΩとは番にはなれないってだけでな」  番関係は、αとΩの間でだけ成立する。性交中にΩのうなじをαに噛まれる事で、Ωはそれ以降は他のαにフェロモンを発する事はなくなるのだ。  もしもこの先、アンバーが別のΩと番になるには、アンジュが死んでいなければならない。 「別にαやβと普通に夫婦になるのは問題はないが、Ωなら話は別だ」  いつハンターに狙われるか分からない人間社会で、ウェアウルフ達はそこに溶け込んで暮らしている。とりわけ、α性を生む確率の高い人間のΩと番う為に。 「お前、殺されるぞ。ティカアニ家のやつらに」  ──まぁ、あいつの場合は、どうしようもない雑種の血が濃いから、同族の白いαと番わせる可能性もあるけどな。と、男が嗤う。  背中に冷たい汗が伝う。 「それなら、やられる前に、こっちからやればいい」  声のトーンを落として、男が耳元に囁いた。 「何……考えてる」 「何って……番関係を解消させる方法さ」  背後でカチャッと微かな音が鳴り、後頭部に硬質な金属を押し付けられる。 「これが何か分かるか?」  振り向かなくても分かった。 「……拳……銃」 「そうさ。これでアーロンを殺してしまえば、お前は晴れて自由の身になって、俺と番になれるってわけさ」  だけど、ウェアウルフにそんな物は効かない。たとえ、鉛の玉が心臓を打ち抜いても致命傷には至らない。 「これは、ただの拳銃じゃない。中に入っているのは、聖別された銀の玉さ」  銀には殺菌効果がある。人間にはほぼ無害と言われているそれが、ウェアウルフには毒になり、その細胞を破壊する。  昔からウェアウルフは銀に弱いという説が伝えられているが、ウェアウルフの存在もアンバー達に出会うまでは、映画や小説の中だけの空想のモンスターだと思っていた。  だけどこうして、現実に起きている出来事が、男の話も本当なのだと確信させる。 「お前になんか、アンバーは殺せないし、オレはお前の番になるくらいなら死んでやる」  男は、アンジュの言葉には何も返さずに「ふん」と、鼻で笑いながら、拳銃をベッドの隅に放り投げた。 「拳銃を持ってるだけでも、手が痺れてくる感じがするぜ」  そう言って、アンジュの腰を両手で引き寄せる。 「────っ、あっ」  大きな手で双丘を割り広げられ、獣の凶器を窄まりに押し当てられた。 「い、いやだ」 「あいつら、遅いな。もうこっちは我慢できねぇんだよ」 「……う、っ、うぅ」  また吐き気に襲われて、シーツを汚してしまう。  もうなにも吐くものがなくて、胃液だけが逆流した。 「吐きたいだけ吐けよ。こっちはこっちで勝手にやる」  前に逃げようともがけば、がっしりと腰を掴まれて引き戻される。  狼の鋭い爪が、肌に食い込み血が流れたが、気持ち悪さの方が勝っていて、痛みは感じない。

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