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第33話
「この事を、ドン・マンテーニャがお聞きになったら、貴方はどうなるんでしょうね? トレイターさん」
マシューは、そう言いながら立ち上がり、トレイターの方へ視線を戻した。
「っ! んーんーっ!」
トレイターは目を見開き、抗議の声を上げながら、マシューに向かっていこうとするが、手錠に付いている鎖を後ろからマシューの部下に引っ張られ、敢え無く引き戻されてしまう。
「売り物にするはずだったΩを無理やり犯し、その上項を噛んで自分のモノにしてしまうなんて、マンテーニャのドンが許すはずはないでしょうね……」
「────!! んーっぅ! う!」
「かわいそうに……アンジュ様は、トレイターが死ぬまで、もう他の誰とも番うことができなくなってしまった……」
「ううーー!」
アンジュも、そしてアンバーも、イアンの言葉に、最初は驚きの表情を浮かべていた。
しかし、アンバーだけは、すぐにその意味を理解したのか、顔を背けてこっそりと口元を弛ませる。
「しかも……この注射器……」
と、マシューが床に転がっていた注射器を拾い上げる。
「これは……ヘロインですかね? あぁ……そうですか。すでにアンジュ様は中毒にされてしまっていたのですね。これではもう、アンジュ様をマンテーニャに連れ帰る事もできないですね……」
「っ、んーーーー!」
「売り物のΩと勝手に番になり、その上薬を打ったなんて……、本当に覚悟をしておいた方が良いですよ、トレイターさん?」
「う、っーー!」
トレイターは必死に抗議の声を上げる。しかし猿轡をされているせいで、その声は言葉にする事はできない。
そんなトレイターに、マシューは憐れみの眼差しを向けながら、最後にこう言った。
「大丈夫です。ちゃんとこの事は、貴方の部下達が証明してくださるそうなので。しっかりとファミリーの制裁をお受けくださいませ」
外に目を向けると、トレイターの部下達は、やはり両手を拘束され、車の後部座席でおとなしく座っていた。
どうやら、マシューがすでに話を付けていたようだ。
アンジュへの行為は、未遂に終わってはいるが、薬物を持ち出した事がトレイターを裏切る最大の原因になっていたらしい。
この不始末の制裁が、自分たちの身にまで及ばないのならと、マシューに寝返ったのは当然の事だったのだろう。
「私は、お二人と少し話をしますので、先に車で待っていてくれますか?」
マシューはそう言って、部下にトレイターを任せ、部屋のドアを閉めると、アンバーの方へ向き直った。
「アーロン様、イアン様から言付けをお預かりしております」
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