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第37話
「では、私はトレイターをマンテーニャに送り届けなくてはいけませんので、そろそろ行きますね。アンジュ様のことはお任せしても大丈夫ですか?」
荒れた部屋を綺麗に整えて、マシューは浴槽に湯を溜めているアンバーに声をかけた。
「うん。ありがとう、マシュー。僕たちも少し休んで、アンジュが落ち着いたらここをチェックアウトするよ」
マシューは、それが良いですね。と、頷いた。
「マンテーニャの追っ手は、もう大丈夫だと思いますが、私がアーロン様を連れて帰らなければ、レスター様はまた他の者を向かわせるかもしれませんし」
「……そうか……」
「レスター様も、貴方を心配なさっての事なのです」
「……分かってる」
──それでも……今は帰れない。
「どちらへ向かわれますか?」
「このまま北へ向かうつもりだ」
アンバーの答えに、マシューは表情を曇らせた。
「北へ向かうのなら、ノースシストだけは、お避けくださいますように」
──北の都、ノースシスト。
そこには昔、ルナティックの夜に、狼が集団でヒトを襲った街がある。
そして、未だに人狼伝説が根強く残り、狼狩りが盛んに行われているという話を伝え聞く。
もしも、ノースシストで正体がバレてしまったら、アーロンは無事ではいられない。
この事は、アンバーの父、レスターもかなり心配をしていたと、マシューは言った。
「大丈夫だよ。正体がバレるようなヘマはしない。それに、狼狩りも、ただの噂かもしれないじゃないか。狼が人を襲ったという話も、かなり昔の伝説だろう? 今は信じてる人も少ないんじゃないかな」
確かに、アンバーのいう事にも一理ある。数が激減したウェアウルフが、ノースシストに存在するという話も聞かない。そもそも、野生の狼が少ないはずなのだ。
「しかし、人間を侮ってはいけません。一人ではウェアウルフに敵わないかもしれませんが、集団が信仰を持ち団結すると、その力は測り知れないものになります。現に私達は聖別された銀の玉ひとつを身体に打ち込まれただけで、命を落とします」
「分かっているよ」
その事は、アンバーも十分に理解していた。幼い頃から何度も何度も教えられてきたからだ。
「でも、だからこそ、そこに上手く入り込めば、追っ手の目も欺くことができると思うんだ」
ウェアウルフが、まさか危険だと言われている地域、ノースシストで生活をしているなんて、誰も思わない。
ティカアニからもそうだが、いくらトレイターが制裁を受けたとしても、マンテーニャからまた追っ手が送られないとは限らないから。
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