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第45話

 確かに……。  アンバーの指先が、唇が、触れただけで、その先を期待する。  熱いキスに、魂が揺さぶられ、全身が戦慄いて、激しい口淫に理性が飛ぶ。  もっと欲しくて、もっと奪ってほしくて、全部アンバーのものにしてほしいと、そればかりを考えていた。  アンバーに触れられている間は、忘れていた。あの男のことなんて、最初から無かったみたいに。  でも……熱に浮かされた頭が冷えてくると……まだ……。 「まだ匂うんだよね」  アンジュの考えていた言葉が、アンバーの口から発せられた。  薄れてはきたものの、トレイターの匂いはしつこくアンジュの身体に染みついている。  煙草の匂いも混じっているが、それとは違うトレイターの独特な匂い。  まるでマーキングのように。  開いた口吻から滴り落ちる唾液に肌を濡らされて、吐き気がした。  吐き出される荒い呼気に包まれて、寒気が走った。  鼻先を擦りつけられて、舐められて、嫌な男の手の感触はあちこちにまだ残っている。  首筋に、肩に、胸に、腰に……。その時の事を思い出すと、身体の奥で節くれだった太い指が蠢く感覚が蘇ってしまう。 「やっぱり、なんかムカつく」  忌々し気にそう言って、アンバーはトレイの上の石鹸を手に取り泡立て始めた。 「全部綺麗に洗ってやる」  泡にまみれた大きな手のひらが、ぬるぬると項を撫で、肩から腕へと滑り落ちる。 「あ、アンバー、自分で洗うから」  アンジュは首を竦め、身を捩った。  ぬるぬるとした感触が、くすぐったいのと気持ちいいの狭間で、火照った身体の熱を更に上げてしまう。  だけど、アンジュの希望は、アンバーに即座に拒否されてしまった。 「駄目。僕がする」  そう言って、アンジュの身体を持ち上げて、自分の膝の上に座らせる。  さっきよりも、お互いの身体がピッタリとくっついて、アンジュは余計に身動きが取れなくなった。  膝の上に座ったことで、水面より上に出た胸に、背後からアンバーの手が伸びる。 「ここも、触られた?」  胸の頂に石鹸の泡を塗りつけ、ぬるぬるの指先がクルクルと動く。 「──っ、わかんなっ……ん、ぁッ……ん」  ムズムズとした快感が背筋を駆け上り、アンジュは唇から小さな喘ぎ声を漏らした。  すっかり硬くなって、熟れたように紅い胸の尖りが、泡の向こうで透けて見えるのを、アンバーは背後から覗き込んでくる。 「気持ちいいの?」 「……っ、うるさ……ぁあっ……ん、ん」 「気持ちいいんだ?」  コリコリになった両方の先端を指先で摘みあげてやると、肯定なのか否定なのか、まるで分からない声が返ってくる。 「……っ、や……ぁっあ」  アンジュの唇から零れる返事は、もう言葉になっていなかった。 「じゃあ、もっと気持ちよくなって。もう、僕のことしか考えられないように」

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