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第49話『ノースシスト』

   第3章─:ノースシスト  ********  翌朝、まだ暗いうちに、モーテルを後にした。  アンバーがハンドルを握り、車は北へと向かって走り出す。  夜半頃から降り出した雪が、車のライトの中でヒラヒラと舞い、アスファルトや道路わきの街路樹をうっすらと白く染めていた。 「アンジュ、身体は大丈夫?」 「うん」  アンジュは助手席で、うとうとと微睡んでいた。  初めての発情期が始まって、まだ3日目。  Ωの発情期は一週間続く。  番になった今は、アンバーにしか発情しないが、身体は常に微熱を帯びたような状態が続く。  身体を本当に休めていられるのは、眠っている時だけかもしれない。 「眠ってていいよ」 「でも……お前もあまり寝てないのに」 「僕は大丈夫。若いから」 「一歳しか違わないだろ」  アンジュは口元を弛め、目を閉じた。  本当は、発情期の間はずっとあの安モーテルの部屋に籠って過ごしたかった。  そんな不埒な事も考えてしまう。  だけど、こうしてアンバーが隣にいれば、またいつ自分の意思に関係なく、身体が求めてしまうかもしれない。  アンジュが熱を帯びれば、アンバーもそれに反応してしまう。興奮が高まると、身体に変化が起こってしまうかもしれない。  外にいて、誰かに見られてしまったら……そう考えると怖かった。  だから、できるだけ眠っていた方がいいのかもしれない。  アンジュは目を閉じたまま、自分の腹に、そっと手を添えた。  まだ身体の奥にアンバーの残した熱を感じる。それがとても幸せだった。  この幸福感を感じてる間は、あの嵐のようなヒートは起こらないんじゃないか。そんな気もする。  この幸せが、ずっと続けばいいのに。  アンバーは、大丈夫だと言っていたけれど、北へ向かって本当に大丈夫だろうか。  マシューが言っていた“狼狩り”の話を思い出すと、胸に不安が過る。  自分のことよりも、人の心配を本気でするのは、生まれて初めてかもしれない。  もうアンバーは、アンジュの中で自分よりも大切な人になっていた。  ──これが、家族になるという事なのか。  ぼんやりと頭に浮かんだ“家族”という言葉に、胸が温かくなる。  まだ形はないけれど、ほわほわとした温かいものに包まれるような心地良さを感じながら、アンジュは車の揺れに身を任せ、深い眠りに誘われていった。

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